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2025.12.26 17:00

“やめていい線引き”が背中を押す——剛腕経営者から学ぶ「撤退ラインがビジネスには欠かせない理由」

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 新卒で中小企業に就職し、大企業に転職、そして起業。ジェットコースターみたいなキャリアを歩んできた藤原正明さんの話は、非常にエキサイティングでした。

起業のスタートダッシュに必要なもの

 印象に残ったひとつが、こんな言葉でした。

「起業するとき、35歳までやってダメだったら、またサラリーマンに戻ろうと思っていた」

 起業したのは33歳のとき。すでに妻も子供もいたため、大企業を辞めるのには、躊躇や周囲の反対も少なからずあったと思いますそんな藤原さんが、起業のスタートダッシュのために持っていたもの。それが「撤退ライン」です。

「〇〇までに××ができていなかったら撤退しよう」

 このルールを決めておくと、意思決定が楽になります。やるべきことが明確になりますし、行動に甘えがなくなります。

 え? 起業家たるもの、「どんな困難があっても、夢に向かって成功するまで諦めない」という気概が必要じゃないの?そんな風に思った人もいるかもしれません。くじけず立ち向かう姿は確かにかっこいいですし、憧れます。そうやって成功した人もたくさんいます。

パッションの中にも垣間見える計画性

 ただし、ビジネスの世界では必ずしも全てがうまくいくとは限りません。

 自分の仮説が間違っていたり、天災やコロナ禍のような予期せぬ環境変化が起きたり。「いつかは成長する」と信じていても、資金が尽きて続けられないなんて状況は普通に起こります。

 そんなことになったら家族や仲間に迷惑をかけるかも…なんて頭によぎると、挑戦にブレーキがかかるのは当たり前。そんな時に、やめていい「撤退ライン」があることは、挑戦の背中を押してくれるんです。

 SNSでは無鉄砲にも見える藤原さんですが、実はパッションの中に計画性があるんだなと実感しました。

「撤退ライン」は起業だけでなく、会社や学校などでも役立ちます。

「新規事業」の舞台裏で起こりがちなシーン

 たとえば会社の新規事業で考えてみましょう。

「失敗を恐れるな」

「気楽に考えよう」

 上司から、そんなアドバイスをもらった人も多いと思います。組織を活性化させるため、日本の多くの会社で飛び交っている掛け声です。ところが、いざ新事業のアイデアを持っていくと、上司はこう言うのです。

「この案、本当にうまくいくのか?」

「環境変化が起きたらどうするんだ?」

 まじか。失敗を恐れるな、気楽に考えろ、そう言っていたのに……。そんな上司に絶望し、「うちの会社で新しいことをやるのは無理だ。この会社には未来がない」とやる気を失う人を、何人も見てきました。

 決してその会社が特別ダメというわけではありません。同じことを言っている人は何人もいます。

 なぜ上司は、そんな手のひらを返したような発言をするのでしょうか? 上司だって、新しいアイデアを潰したいわけではありません。部下から失敗を恐れないアイデアが出てきたことを喜んでもいます。

 じゃあなぜ? それは、自分の失敗より、他人の失敗のほうが怖いんです。

「新しいアイデアで失敗して、自分の経歴に傷がつくのは気にしない」。かつてそんな風に挑戦してきた上司も、誰かのアイデアで失敗して、会社の仲間に迷惑をかける事態は避けたいものです。自分の出世が止まるくらいならいいけれど。

 特に会社という組織では、上司や実力者がOKした新規事業は、始めることよりもやめることの方が難しいなんてことが多々あります。そのため、軽々しく始めてしまうと、やめるにやめられなくなってしまうと心の警戒スイッチが押されてしまうのです。

上司を説得させるために必要な要素

じゃあ、「上司の説得なんてムリだ」と諦めるしかないのか? そんなことはありません。

 その時に威力を発揮するのが「撤退ライン」です。

「いついつまでに成果を出します。ダメなら撤退でも構いませんので、進めさせてください」

 これなら上司も失敗するまでの計算がしやすい。さらに言うと、「失敗しても得られるもの」を伝えられれば完璧です。

「撤退しても、〇〇のデータはたまるので、次の事業に生かせます」

 成功に半信半疑だった上司だって、さらに自分の上司や他部署の人間にも説明しやすくなります。学生だったら、部活やゼミで使ってみてください。

「〇〇という戦術を試してみましょう。1か月でモノにならなかったらやめても構いません。失敗しても、複雑な動きを理解できる選手とそうじゃない選手が見えて、次の作戦が立てやすくなります」

「〇〇というフィールドワークをやってみませんか?3か所行ってみて、報告発表会に集まる人数が変わらなかったらやめましょう。続けられなくても、××や△△などに会えるので、今後の研究で相談できる有意義な人脈になると思います」

 そんなふうに「撤退ライン」は先生や仲間を説得するときに役立ちます。ただ、勘違いはしないでくださいね。「撤退ライン」は、挑戦を始めるための目標ラインです。

 やめる言い訳ラインではなく、スタートダッシュのために背中を押す仕掛けです。藤原さんが撤退ラインを超えて、どうやって成功へ走り続けているかは、ぜひ動画でチェックしてください!

<文/清水俊宏 撮影/岡戸雅樹>

この記事を書いた人
清水 俊宏
フジテレビ公式YouTube『#シゴトズキ』プロデューサー
フジテレビ報道センターBS担当部長兼デジタルメディア事業部。2002年一橋大学を卒業後、フジテレビ入社し、政治記者・ディレクターなど経験。2016年から事業開発も担当し、「報道プロデューサー」と「ビジネスプロデューサー」の二刀流に。YouTube『#シゴトズキ』のMC、地方銀行の事業開発アドバイザー、iU専門職大学客員教授などの顔も。学生時代はリュック一つで世界中を飛び回り、特技は野宿。


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