「起業は逃げに等しいかもしれない」大手IT企業から独立した経営者が明かした“自由を求めた本音”
グランパスコンサルティング株式会社代表取締役社長の大平祐輔氏。IT事業を軸に、学習塾、結婚相談所と3つの異なる事業を手掛ける彼の口から語られたのは、「起業は逃げに等しいかもしれない」という意外な言葉でした。
大手IT企業で12年のキャリアを積んだ後、2020年に自身の会社を設立。その背景には、高い野心や壮大な目標ではなく、もっと人間らしい、切実な思いがありました。
「自由」を求め、自らの手で働きやすい環境を創り出した大平氏。その独自の経営哲学、そして若者へのメッセージに迫ります。
息苦しさから逃れるために自分の会社を作った
グランパスコンサルティング株式会社は2020年1月に創業し、現在5年目を迎えます。創業当初からのIT事業に加え、学習塾、結婚相談所と、現在では3つの事業を柱としています。
代表の大平氏は、2008年に新卒で大手のIT企業へ入社。学生時代から目標としていたSAPに関わる仕事に就き、12年間にわたってそのキャリアを追求してきました。
「元々、新卒で入った会社がすごく好きで、いい会社だなって思って働いていました。自分がまさか起業するなんて思ってもいませんでしたね」
順風満帆に見えた会社員生活。しかし、上場企業ならではの環境が、次第に彼に息苦しさを感じさせるようになります。
「残業時間を減らせ、でも成果は上げろ、部下の指導はしてね、と。だんだん矛盾した指示が増えてきたんです」
のびのびと働くことを好む自由な性格だった大平氏にとって、強まる締め付けは窮屈なものでした。転職も考えましたが、愛着のある会社を離れて他の会社へ行くという選択肢は考えられなかったと振り返ります。
「それだったら、自分で働きやすいように会社を作ったらいいじゃないか」
その思いが、起業の直接的なきっかけとなりました。高い目標や野心があったというよりは、むしろ「逃げに等しいかもしれない」と、大平氏は当時を振り返ります。
自らが求める自由な働き方を実現するため、彼は自身の会社を立ち上げる道を選んだのです。
もし今学生なら、お金より成長
もし今の時代に学生だったら、どのような働き方を選ぶのでしょうか。この問いに対し、大平氏は「お金よりも、自分の成長につながる場所で働きたい」と即答しました。
彼が経営する学習塾では、多くの大学生がアルバイトとして働いています。その彼らにも「お金を稼ぐだけでなく、自分の成長につなげてほしい。大学卒業後に社会で活躍できるスキルを身につけてほしい」と常々伝えているそうです。では、成長できる場所とは具体的にどのような環境なのでしょうか。
「ベンチャー企業でインターンとかをしたいなと思いますね」
大企業が実施するインターンは、どうしても「お客様」のような扱いになりがちで、楽しませて終わることが多いのではないか、と大平氏は指摘します。
それに対し、ベンチャー企業のインターンは、お客様ではなく対等なパートナーとして、働き、成長することが求められる。そこでは大きな裁量が与えられ、多様な経験を積むことができると考えているのです。自らの成長に貪欲であること。それが、学生時代の働き方において最も重要な価値だと、大平氏は考えています。
99%は辛い。でも、完成した時の喜びは何物にも代えがたい
20代の頃、最も熱中したことは「仕事」でした。大学生の頃から憧れていたSAPの仕事に就けた喜びから、一心不乱に勉強に打ち込んだと言います。
「当時は、多分日本でもトップクラスに実力はあったんじゃないかな」
そう語る彼のITへの道は、意外なところから始まっていました。
「私、元々中学校に行ってなくて。いわゆる不登校ってやつです」。
進学できる高校が限られる中、たまたま入学したのが情報系の学科でした。当初はまったく興味がなかったものの、高校、大学とITと会計を学び続けるうちに、それが自らの道となりました。ITの仕事は「99%辛い仕事ばっかり」だと大平氏は笑います。

「終わりが見えないような困難なプロジェクトも少なくありません。しかし、その苦しさを乗り越えた先に、最高の瞬間が待っています。最終的にシステムができあがって、いざ動き出すっていう時は、やっぱり何物にも代えがたい」
その喜びがあるからこそ、今も現役のプレイヤーとしてシステム開発の現場に立ち続けているのです。
まずは一歩踏み出すマインドが大事
最後に、どんな若者と一緒に働きたいかと尋ねると、「チャレンジ精神のある若者がいい」という答えが返ってきました。
「大学生や社会人1年目は、まだ何もできなくて当たり前。でも、やる気だったり、とりあえずチャレンジしてみるっていう気持ちは持てるはずです」。
大平氏の会社では、朝に「右」と決まったことが、昼には「左」に変わることも日常茶飯事だと言います。そうした目まぐるしい変化や、時には無茶ぶりに見える指示に対しても、臆することなく機敏に動き、とりあえず一歩を踏み出してみる。そんなマインドが何よりも大切だと考えています。
「スキルや知識は後からでも身につけられます。しかし、挑戦する心構えがなければ、成長は始まりません。弊社には、会社全体の売上目標といったものは存在しません。会社の目標があるというよりは、個人のやりたいことや目標を実現できたらよし、というところがあります」
「逃げ」から始まった起業は、今、多くの若者の成長を支え、個人の夢を応援する温かい場所に変わっていました。挑戦を恐れず、まずは一歩を踏み出すこと。大平氏の生き方そのものが、未来を担う若者たちへの力強いエールとなっているのです。
Future Leaders Hub編集部