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2025.11.28 17:00

「年収1300万円では足りなかった」メガバンク出身女性起業家が明かす“起業の真相”


学生時代から海外旅行や読書で多様な人生観に触れ、メガバンク在籍時代には「合理的思考」と「愛嬌」で組織を渡り歩いてきたと振り返る勝倉千尋氏。副業が発覚してしまい、「本業か副業か」の決断を迫られた際には、理想のライフスタイルを実現したいという飽くなき欲求から独立を選択。

2023年に株式会社ナレソメを創業し、売上1兆円規模の企業を目指す勝倉氏の学生時代や起業の原点に迫っていく。

今しかできないことに挑戦し、色々な価値観に触れた学生時代

── 勝倉さんはどのような学生時代を送っていましたか?

20代の頃は、正直モテていたと思います。でも、25歳まではとりあえず遊ぼうと決めていたので、あまり深く考えずにいろんな人と関わっていました。とはいえ、そんなに恋愛体質でもないので、「今しかできないことをしよう」という感覚で過ごしていた感じですね。また、学生時代は海外にたくさん行っていましたし、本もたくさん読んでいました。

自由に旅をして視野を広げるとか、時間をかけて本を読む経験って、社会人になるとなかなかできないじゃないですか。なので、時間のあるうちに自分の世界をどんどん広げようと思って、積極的に行動していました。

今振り返ると、その経験が今の活動にもすごく活きていると感じます。海外でいろんな価値観に触れたり、本を通じて時代や文化を学んだりするなかで、「世の中には本当にいろんな人生がある」と実感したんですよね。

私は古典文学が好きで、『吾妻鏡』や『虫めづる姫君』などもよく読んでいたんですが、時代や環境が違っても、人の生き方の多様性は変わらないんだなと感じました。

それは今の婚活事業にもすごく通じる部分があって、お客様それぞれに“その人らしい人生”があって、十人十色のストーリーがあるからこそ、「この人がどんな人生を描きたいのか」という視点で向き合うことを大切にしています。

そして就職のときは、もともと1つの専門領域に絞り込むよりも、世の中を俯瞰して見たいという気持ちが強く、三菱UFJ銀行を選びました。金融業界なら、いろんな業種や人の動きが見えるだろうと思ったんです。結果的にその選択も、今のキャリアや価値観のベースになっていますね。

信念と愛嬌で組織を渡り歩いた処世術

── 会社の新人時代で印象に残っていることはありますか?

当時、三菱UFJ銀行では新入行員が初年度の冬に配属先の支社で開催するクリスマスパーティで、「何かしらの芸を披露する」という文化があったんですね。そこで、新人同士で何をやるか企画し、実行することになったんですが、当時はももクロ(ももいろクローバーZ)が流行っていたので、私たちはももクロのダンスを披露し、大盛り上がりとなりました。

ちなみに、銀行は一般的に硬いイメージがありますが、仕事には直接関係ないことでも、意外と周囲からは見られていて、新人として「どう爪痕を残すか」というのがポイントになっているんですよ。

たとえば、支社での飲み会の費用を集計するときも、間違えがないかなど細かい対応力が見られていました。最初は何もできない新人ですが、仕事に直結しないことでも真剣に取り組む姿勢が評価につながるんです。

実際、同期や先輩を見ていても、こうした地道な努力をしっかりやれる人は出世していくケースが多かったですね。

── 仕事に対してはどのように向き合っていましたか?

新人時代から、「なぜこの仕事をやるのか」「もっと効率的にできるのでは?」と考えるタイプで、上司に対しても結構反発していた部分もありました。私が配属された支社では、「お客様を毎日訪問せよ」という指示がありましたが、別に用もないのに行くのは迷惑だと思っていたので行きませんでした。普通の新人は素直にやりますが、どうも自分の中では合理的ではないと感じたのでやらなかったんですよね。

私が考える「反発」には2種類あると思っていて、何も根拠もなく「嫌だからやらない」と周囲にネガティブな印象を与える反発は自己中心的な人に見えてしまいますが、自分なりの合理的な考えがあって建設的に意見できる“良い反発”というのは、むしろ評価されることがあるんです。

私自身は自分の意見を持ちながらも、成果を出す姿勢は見せていたので、社内では割と「可愛がられるタイプ」だったかなと。「勝倉が言うなら仕方ないか」と言われながら、周囲に支えてもらっていて、信頼と愛嬌でうまく組織の中を渡っていたのかなと思います。

── 大変だったことは何かありましたか?

特に大変と感じたことはありませんでした。強いて言えば、不動産ノンリコースローン(返済責任が担保資産に限定される融資条件)や開発系の案件を担当していた際に、シンガポール支店と密に連携し、現地出張で物件を視察しました。ただ、出張のスケジュールは非常に密に詰め込まれていて、30代の働き盛りの男性と同じ体力レベルで動く必要があったため、フィジカル的に大変でした。

女性の場合は化粧や身支度の準備もあるので、なおさら大変で、朝早く起きなければいけないのが辛かったです笑。

メガバンクを辞めて「モテコンサル」で起業

── 会社を辞めたのはどのような理由からですか?

三菱UFJ銀行を退職した最大の理由は、「給与水準が合わなかった」という点ですね。当時、すごく尊敬していた30代半ばの先輩がいて、仕事も抜群にできる方だったんですが、その方でも年収がおそらく1300万円程度で、長年勤務して熾烈な競争をくぐり抜けて役員クラスまで昇進しても2000万〜3000万円だと噂で聞いて、「それほど優秀な人でもこの水準なのか」と感じたんですよ。求められる能力値と競争の過激さに対してのリターンが見合っていないと思ったのが、退職を考え始めたきっかけです。

そこから「もっと自分の力で稼ぐ方法はないか」と考えるようになって、少しずつ副業に興味を持ち始めました。もちろん銀行は副業禁止でしたが、自分なりに規定を読み込んで「この範囲なら大丈夫だろう」と判断し、最初はネットを通じた恋愛相談などを個人で受けるところからスタートしました。

その頃、ちょうど仮想通貨が盛り上がり始めていて、金融関連の規制の対象外だったこともあり、仮想通貨コミュニティに顔を出すようになりました。そこで気づいたのは、能力が高いのに恋愛や身だしなみに無頓着な理系男性の多さでした。

彼らのポテンシャルを最大限に活かすため、「人の魅力を磨いて市場価値を高める」という発想で「モテコンサル」を立ち上げたのです。実際にやってみると、予想以上の反響を得たことから、本格的に事業化することになりました。

── 副業からスタートして起業されたわけですけど、独立した決め手は何だったのでしょうか?

当時は副業としてモテコンサルを始めていたんですが、実際にやってみると「初めて彼女ができた」「結婚につながった」といった嬉しい報告も多くて、手応えはかなり感じていました。ただ、その一方で、本業もフルタイムで銀行員として働いていたので、どうしても時間が足りずに悩んでいたんですね。

そんな矢先に、あるウェブニュースからのインタビュー取材の依頼をいただいて、普通に顔出しでお引き受けしたところ、会社に副業がバレてしまって。呼び出しを受けることになり、「本業か副業かどちらかを選んでください」と言われて、最終的に副業の道を選びました。

仮にうまくいかなかったとしても、社会的にも人手不足の時代ですし、どこかでまた雇ってくれるだろうという計算もありました。そのため、思い切って独立の道に踏み出したんです。

また、銀行でも優秀な人が年収1300万円程度の給料であるという現実を見ていて、単純に自分の理想とするライフスタイルを考えた時に、その収入では足りないという感覚もありました。私は快適で上質なものが好きで、「これがいい」と思うものを選んでいくと、どうしてもお金がかかってしまって、今でも正直足りないと感じるくらいです。本当に欲望が無限大で(笑)。

それに比べると、今の事業は、顧客や社会に対する貢献性も抜群にありながら、経済面でも満たされうるため、三方よしで矛盾なく働けています。今後、長期的には売上1兆円規模の企業を目指しています。それは数字のためじゃなくて、あくまで自分の理想や社会に対してやりたいことを実現しようとすると、そのくらいの高い目標になるんです。ただ、どこまでいけば満足できるかは分からなくて、たぶんイーロン・マスクのレベルになっても「まだ足りない」と思うかもしれません……。

それくらい常に新しい挑戦や理想を求め続けていて、一生何かに飢えているような感じがします。

── 上質さを求める価値観は幼少期から培われてきたのでしょうか。

家庭はごく普通の中産階級で、特別に贅沢をしていたわけではないんですが、小さい頃から心地よさや上質さに対してすごく敏感でした。どうせ選ぶなら、自分の知りうる最上のものを常に選ぶことを追求していましたね。

結果的にそのような価値観は、今の仕事にも貢献していると思います。ハイレベルな一流のサービスを追求する意識の高さや、上質な顧客体験を重視する姿勢が、自然とハイスペック層や高年収層の方々に響いているのかもしれません。

組織運営の鍵は「相手の立場を想像する力」

── 2023年に株式会社ナレソメを創業しましたが、組織を運営するために心がけていることは何ですか。

組織を作る上で難しさを感じる場面は少なくありませんが、「相手の立場や気持ちを想像する力」はとても大事だと思っています。弊社にはいろんなバックグラウンドの人がいて、立場や考え方も異なるので、「相手がどういう思いで行動しているのか」を想像しないで、表面的な言葉だけで判断してしまうと、誤解や不必要な摩擦を生んでしまいます。

過去には、物事の背景や事実の確認を十分にせずに、聞いた話を迂闊に部内の人に伝えてしまい、誤解を呼んでしまったことがありました。その結果、組織内の不要な摩擦とハレーションにつながった事案があります。

こうした経験から、組織の健全性を守るためには、事実は事実として丁寧に確認したうえで、従業員の立場や気持ちをさまざまに想像し、相手へのリスペクトが伝わるように関わることが不可欠だと学びました。自分は一匹狼タイプで、人の気持ちを直感的に理解するのは得意ではなく、繊細な気持ちの微妙な変化を読む力もあまりないと自覚しつつ、それでもなるべく理解しようと努力しているのが、今の私の組織運営の姿勢だといえます。

<構成/古田島大介 撮影/岡戸雅樹>


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