週6日17時間労働でも辛くなかった。 “たたき上げ経営者”が語る「努力と工夫で人生は変えられる」
中小企業で叩き上げ、大企業で組織を学び、30代で起業した大和財託株式会社 代表取締役CEOの藤原正明氏。
「趣味は仕事」と言い切る同氏の20代における働き方は、まさに“ワークライフアンバランス”だったという。
幾多の困難や葛藤を乗り越えてきた経営者が語る「働くことの本質」と「キャリアの考え方」について伺うとともに、これからの時代を生きる若者たちに、どのような経験を積み、マインドセットを持つべきかを聞いた。
「ワークライフアンバランス」で仕事にのめり込む

── サラリーマン時代はフルパワーでお仕事されてきたと思うんですけど、具体的にはどのように仕事にコミットしていたのでしょうか?
それこそ、今の「ワークライフバランス」なんて言葉からは程遠く、むしろ「ワークライフアンバランス」でしたね(笑)。
各社で“山場”があったんですが、1社目の中小メーカーでは、毎朝7時前には出社して、2時間ほど受発注などの事務作業をこなしてから、9時の現場開きと同時に営業活動をスタートしていました。そこから夕方、18時〜19時頃に会社へ戻って2時間ほど事務処理を行い、21時くらいからは上司と飲みに行って、日付が変わる頃に帰宅するという生活をずっと続けていました。
大企業の後に勤めたベンチャー企業の時も、まさに修行のような毎日でしたね。週6日勤務で1日17〜18時間働くのが当たり前の環境で、朝6時出社の深夜0時まで働くのがあたり前。休みは夏・冬・GWの年3回、それぞれ5日程度でした。
それでも、不思議と「辛い」と感じたことはなかったんです。それは、仕事が心から好きだったからだと思います。
今はさすがに週2日休めていますが、当時も今も私にとって仕事は「趣味」に近い存在なんですよ。よく新作のゲームが発売されたら徹夜でやり込む人がいると思いますが、まさにその感覚に近くて……そのくらい夢中で仕事にのめり込んでいました。
── その経験が今の会社経営にどのように活かされていますか?
大企業で学んだ「仕事の進め方」や「組織としての動き方」は、今の経営にすごく活きています。その一方で、中小企業で営業していた頃に、代理店の社長さんと腹を割って話し、倉庫で一緒に缶コーヒーを飲みながら在庫調整をするような泥臭い経験も自分の原点になっていますね。
人はロジックだけで動くのではなく、“感情”で動く。その現場感覚を体で覚えたことが、今の経営判断にもつながっています。
実際、当社では設計から施工までを自社で手がけていますが、現場で働くのは職人さんたちです。私の父も職人でしたし、職人たちの苦労や気持ちがよくわかるからこそ、現場に敬意を持ち、感謝を忘れずに一緒にものづくりをする姿勢は、会社がどんなに大きくなっても変えたくない部分です。
机上の空論ではなく、現場を理解した上で意思決定ができるのが、今の大和財託の成長を支えていると思いますし、これまでの多様な経験が確実に現在の経営に生きていると感じています。
一生懸命に仕事と向き合えば必ず評価してくれる人がいる

── もし当時の自分に声をかけるとしたら、どんなアドバイスをしますか?
「お前が当時やっていたことは大正解だよ」
そう伝えたいですね。1社目、2社目、そしてその後の会社も含めて、どの会社でも常に全力投球で取り組んできました。本当に当時の関係者に聞いてもらってもいいくらい、仕事に対して真っすぐでしたね。
お客様のためにどう役立てるか、自分を雇ってくれた会社にどう貢献できるか。
この2つを常に意識して、愚直にやってきたと思います。
やはり仕事に対して一生懸命に向き合っていると、その頑張りを評価してくれる人がいて、チャンスをもらえたり次につながるきっかけになったりする。
「やると決めたらやる」
これが僕の中での仕事に対する基本的な姿勢です。もちろん、どんな職場にも合わない上司や苦手な人はいます。それでも上手くやり過ごしながら、味方を増やしていくための“処世術”が大事になるでしょう。最近は飲み会をしない文化が広がっていますが、私の上司だった世代は“飲みニケーション”が好きな方が多かったので、誘われたらほぼ断らずに行っていましたね(笑)。
当社でも部署ごとに数千万円、全体で1億円単位の規模で、正式に「飲み会予算」を積んで、社員同士がリアルに顔を合わせる機会をつくっているんです。
コロナを経て、AIが台頭してきた今、あらためてリアルなコミュニケーションの価値が見直されてきていますが、どんな時代になっても「人」がすべて。その原点を忘れないようにしたいですね。
社会のリアリティを知る経験の重要性
── 藤原さんの会社で働かれている若い方の特徴は何かありますか?
人手不足が深刻化する今の時代において、安定した大企業ではなく、あえて大和財託をファーストキャリアとして選んでくれるのは、ある意味で“特別な存在”です。
「仕事とプライベートを完全に分ける」という価値観ではなく、仕事も人生の大切な一部として捉えて、「自分の市場価値を高めたい」「ビジネスパーソンとして成長したい」という意識を持った、すごく芯のある若者が集まっていますね。
私が新卒だった2003年当時はちょうど就職氷河期で、大企業に入るのはとても難しい時代でした。
でも今は、昔ほど苦労せずとも大企業に入れてしまうような時代です。そうしたなかで、「安定しているから」「有名だから」という理由で大企業を選ぶのではなく、自分の人生をかける感覚で大和財託を選ぶ。
まさに当社には、ベンチャーマインドを持った若者たちが多いと感じていますし、そういう人たちが活躍できる会社であり続けたいと思っています。
── 今の若い人にはどんな経験を積んでほしいと思っていますか?
もし学生であれば、あえて泥臭い仕事に挑戦することを強く薦めたいですね。将来、財閥系商社などの人気企業に進むとしても、実際に世の中を動かしているのは現場の仕事を担う人たちです。現場を知らずに会議室で議論だけしても、本当に正しい判断や人の心を動かす意思決定はできません。そのため、若いうちは居酒屋でもカフェでも、いろんな人のリアルな価値観や生き方に触れることができる場所で働くことが大事なんです。
東京のような都市で育つと、ある程度似た環境の人たちの中で完結しがちですが、実際の日本社会の大半は年収300万円〜400万円前後の世帯で成り立っています。そうした人たちの生活や感覚を理解できることが、社会を動かす立場になったときに大きな力になると思います。
そして、社会に出ている若者の皆さんに伝えたいのは、どんなにつまらないと感じる仕事でも、まずは1〜2年全力でやり切ってみることです。やり尽くして「もうここでは学ぶことがない」と感じたら、そのときに次のステップを考えればいい。意外と地味な仕事にこそ“本質”が隠れているものです。細部にこだわり、目の前の仕事を突き詰めることが、後々の大きな成長につながるんですね。
私自身も現場を誰よりも理解しているという自負があり、それが今の経営判断の正確さにもつながっています。やはりリアルな現場を理解できる人間ほど、強いリーダーシップを発揮できると思うんですよ。だからこそ、学生でも社会人でも「現場で人を知る経験」をぜひ積んでほしいですね。
努力と工夫で人生はいくらでも変えられる

── 最後に若者に期待することやメッセージをお願いします。
私のキャリアは地方の国立大学を卒業し、最初に入ったのは中小企業と、いわゆる“エリート街道”みたいなものでは決してなかったと思うんですよね。ただ、そんな環境の中でも一つひとつの仕事に真摯に向き合い、信頼に応え続けてきた結果、日本でも数少ない高成長を続ける総合不動産企業を経営するまでに至りました。
もちろん運の要素もありますが、結局のところ「与えられた環境の中で、どれだけ本気でやり切れるか」が未来をつくる一番の要因だと思っています。
そんななかで、若者の皆さんに伝えたいのは「生まれた場所や育った環境によって人生は決まらない」ということ。今の日本は、努力と工夫次第で誰でも人生を変えられる社会です。たとえ今の自分が恵まれていないと感じたとしても、それはスタート地点の違いでしかありません。
たとえば、働き方改革などが叫ばれていますが、逆にいえばこれはチャンスでもあります。少し違う視点を持って、他人より一歩踏み込んで努力するだけで、簡単に頭ひとつ抜け出せる時代だといえるでしょう。
仕事は人生の大部分を占めるものだからこそ、ぜひ一度、自分の人生をどう生きたいのか、自分に問いかけてみてほしいと思います。10年、20年かけて努力すれば、人生はいくらでも変えられますし、仕事を通じて充実した時間を過ごせるようになれば、人生そのものが豊かになります。
希望を持ち、自分の可能性を信じて前に進んでいくことで、想像以上の未来が待っているはずです。
<構成/古田島大介 撮影/岡戸雅樹>
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Future Leaders Hub編集部