「ごまで世界平和」を掲げる京都企業の挑戦 — お金と権力に縛られない経営哲学
株式会社わだまんサイエンスは、「ごまで世界平和」を理念に掲げ、香りと機能性、個性を追求したごま製品の企画・開発・販売を手がけています。ごまリグナンやごま若葉といった機能性素材の展開、OEM製品の受託、植物酵素や化粧品開発まで幅広く事業を展開しています。
京都に「ごまの専門店ふかほり」や「胡麻屋くれぇぷ堂」といった店舗を構えるほか、全国の百貨店での催事販売、オンライン通販も行い、ごまの魅力を国内外に発信しています。特に、ごまを通じた平和活動とビジネスの融合を目指す社会貢献活動「セサミグリーン運動」にも力を入れています。
今回は、「ごまで世界平和」という理念の原点と、多角的な事業展開、そしてセサミグリーン運動が描く未来まで、代表取締役社長・深堀勝謙さんにじっくりとお話をうかがいました。
<聞き手=高橋宏輔(学生団体GOAT編集部)>
【創業の原点:お金と権力に縛られない生き方への問い】

私は若い頃から「本当にこのままでいいのか」という心の声を常に抱いていました。社会に出ても経験や知識もない中で、ただ何かに貢献したい、社会で存在意義を感じたいという思いが強かったのです。しかし、魅力的な会社や経営者の考え方に触れる機会も少なく、結果ミスマッチを起こして挑戦を諦めてしまう20代が多いと感じていました。私自身もまた、お金や権力に縛られていると感じる経験をしてきました。
私のキャリアは宝石店から始まり、営業を学ぶために製薬会社に8年間勤務し、その後、酵素を製造する会社に2年間、ごまの卸店に2年間勤めました。多くの転職を経験する中で、「自分の能力に対して、この給料では足りないのではないか」「会社はもっと安く評価しているのではないか」というように、いつしかお金が自分の価値基準になってしまう問題に直面しました。会社を辞める理由の多くは、お金と権力に縛られていることにあると捉えていました。
こうした経験から、私は「お金とは平和の道具でなければならない」と考えるようになりました。その思いはさらに発展し、コロナ禍以降は「お金の存在しない国を作る」という目標を掲げ、ボランティアとして物々交換の場を設けたところ、多くのファンが生まれています。私にとって、ただ利益を追求するだけの経営ではなく、「どうしたら人が喜ぶか」を考えることの方が、はるかに重要だと感じています。
【「愛」を基盤とした経営哲学:人々の喜びを追求する事業活動】

私は会社を立ち上げる際、とにかく「愛だけでチャレンジしよう」と心に決めました。自分の利益を追求するのではなく、人々の困り事を解決することがビジネスであるべきだと考えています。例えば、ごま事業を手がけるに至ったきっかけは、宝石店時代に喘息で倒れて入院した際、「これからは付加価値よりも、人のためになる“必要価値”のあるものだ」と感じました。その後、ごまを食べることで自身の喘息が改善した経験から、ごまの可能性を強く感じたのです。
製薬会社時代には、自ら生薬を口にして味を確かめ、成分と味の関係を理解する中で商品開発の面白さを知りました。この経験から、ごま業界に入ってからも発芽ごまやごま化粧品、世界初となるごま若葉の青汁など、様々な製品を生み出してきました。当時、発展途上国の人々が手作業で行うごまの生産は利益が少ないと思われがちでしたが、そこで働く人々が生き生きとしている姿を見て、お金だけではない価値があると気づきました。
東日本大震災の際には、会社が赤字で倒産の危機に瀕していたにもかかわらず、いても立ってもいられず現地へ飛び込みボランティア活動を行いました。その中で出会ったボリビアの方とのご縁でJICAの民間連携調査団に参加し、パラグアイの貧しいごま農家が品質基準の厳しさから作物が返送される「シップバック」問題に直面していることを知りました。私はお金がない中でも、杵と臼でごまを挽く方法やフライパンで美味しくごまを煎る方法など、現地で実践できる商品作りを伝えました。
この活動が国立アスンシオン大学の課外事業となり、最終的には外務省のホームページで紹介されるまでになりました。また、国内ではB型就労支援施設の方々と一緒に商品開発をしています。彼らが作った商品を「ゴマソムリエ」ブランドとして付加価値の高い商品として販売し、彼らが社会で活躍できる力を育むことを目指しています。私にとって、利益は「後からついてくるもの」であり、まずは社会的に弱い立場にある人々の力となる製品作りや、人々の困り事を解決することに焦点を当てています。
【お客様との深い繋がり:「誰から買うか」の価値を創造する】

これからの時代は、「どれだけ商品が良くてもダメで、誰から買うか」が重要になります。私は、お客様との深い心の繋がりを築くことを大切にしています。例えば、百貨店での催事販売では、ごまが好きなご高齢のお客様が多く、「私一人だから一つでいいの」という言葉をよく耳にしました。最初は「なぜ一人だとわざわざ言うのだろう」と思っていましたが、多くの方がその言葉に寂しさを滲ませているのだと気づいたのです。
それからは、「またお待ちしていますね」「2ヶ月後、また来てくださいね」と声をかけ、時には小さなプレゼントも添えてお渡しするようにしました。すると、そうしたちょっとした心遣いから、お客様が私のファンになってくださるようになりました。インターネットでどれだけ安く物が買える時代でも、最終的には「寂しさ」には限界があると考えています。信頼できる人から買いたい、自分のことを理解してくれる人から買いたい、という気持ちは、美容院選びにも通じるものがあると思います。
私は、あらゆる発信において、自分を見せようとするのではなく、「愛のある一言」や「感謝を伝えること」を心がけています。ごまの美味しい食べ方や時短レシピを紹介するのも、お客様の「どうやって食べたらいいか分からない」という困り事を解決するためです。そうした発信が人々の喜びにつながり、それがビジネスの成功にも繋がると信じています。
【未来へのビジョン:ごまが繋ぐ平和と助け合いのコミュニティ】

私は、会社を大きくしたいとは全く思っていません。しかし、私を応援してくれる仲間は非常に多いのです。なぜなら、私は自分の見つけたノウハウや知識を惜しみなく共有し、愛をもって人々に接しているからです。例えば、ごまは混ぜ方一つで香りや味が変わり、それは心の持ちようによっても変わると考えています。私は「どういう心持ちが一番美味しくなるか」を追求し、その方法を今、多くの人に伝え続けています。
直近では、物価高騰の影響で2年間値上げをせずにいたため、前期は赤字を出してしまいましたが、お客様の「応援したい」という気持ちで支えられ、過去最高の売上を達成できました。この経験から、私は「ごまインシェルター」という構想を抱いています。これは、愛のある人々だけが集まり、一人暮らしの方々が寂しさを感じることなく、野菜などを持ち寄って物々交換ができる、憩いの場所です。
私の人生は「愛を蒔けば、必ず収穫期が来る」という考えに基づいています。かつて、あるテレビ番組でごまを杵でつきながら「ありがとう」と言っていた私の姿を見た小学生の男の子が、いじめを克服し、自らも「ありがとうのごま」を作るようになりました。彼はその後、私を訪ねてきて弟子入りし、今では太鼓の音を鳴らしながらごま製品作りに携わっています。
愛を伝える行動が、巡り巡って人々の心を動かし、ビジネスの成功にも繋がっていくのです。人生はあっという間です。目の前の損得に振り回されるのではなく、自分の命を人々のために燃やし尽くすことが大切だと信じています。もし今、若い方々が何か得意なことや学んだことがあるなら、対価を求めず他の人に教えてあげることを勧めています。一見、損に見えるかもしれませんが、それは琵琶湖の水が蒸発して、雲となって雨が降るように、必要な時に必ず自分に返ってくる「愛の循環」だと私は思っています。
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