「ターミネーターではなく、ドラえもん」日本発AIが世界で勝つために必要なコンセプト
自身も学生起業の経験を持ち、数多くの大企業で経営参謀を務めてきた株式会社サクラサク代表取締役の山崎伸治氏が、次世代を担うZ世代経営者の悩みと向き合い、ともに将来を切り開いていく「SpecialMentor」。今回の相談者は株式会社WacOrder代表取締役の前田悠馬氏です。
AI事業を立ち上げて3年。市場の急成長とともに競合も増え、「どう差別化するべきか」という課題に直面しています。誰でも扱える時代だからこそ問われる“価値の本質”とは何か。山崎氏との対話を通じて、ビジネスの捉え方や勝ち筋を見つめ直し、日本発で世界を目指すための戦略を探っていきます。

ゴールから逆算する、ビジネスと人生の歩み方
山崎:どうも初めまして、山崎でございます。
前田:お願いします、前田です。
山崎:よろしくお願いいたします。ではまず、簡単に自己紹介をお願いできますか。
前田:はい。株式会社WacOrderという会社の代表をやってる前田悠馬と申します。事業内容は、法人さん向けにAIの活用を推進していて、具体的にはAIの研修や顧問、あとはシステム開発などを行っています。
山崎:ありがとうございます。今をときめくAI会社という感じですね。私、いつも皆さんに聞いていることがあるんです。まず、前田さんの人生のゴール。それからビジネスのゴール。そして、ご自身を分析した上での強みや得意分野。この3点を教えていただけますか。
前田:はい。人生のゴールとしては、もともと研究者になりたかったということもあり、一人でも多くの人の心を動かし、世界中から注目されるような人間になりたいという目標があります。
山崎:素晴らしいですね。
前田:その上で、ビジネスはあくまで目標を叶えるための手段だと考えています。ビジネスを通じて資金や人を集めることで、自分の大きな目標に近づけると思っています。
山崎:なるほど。では、ご自身の強みは何だと思いますか。
前田:一番は体力かなと感じています。小中高とずっと皆勤賞でしたし、今も比較的、睡眠時間は短くても活動できます。
山崎:それは大事ですね。皆勤賞って、地味にすごいですから。ありがとうございます。なぜこれらをお聞きしたかというと、ビジネスも人生も、起点とゴール、そしてそこへ向かう矢印さえ決まれば、あとは期間を決めて進むだけだと考えているからです。
人生のゴールがあり、そのためのツールとしてビジネスがある。そして、自分の強みという現在地が分かれば、ゴールまでのマイルストーンを置いて登っていくだけ。その登り方には個性があっていい。そう考えながらアドバイスをしたいので、まず初めに確認させていただいています。

急増するAI企業の中で、どう勝ち筋を見出すか
山崎:では、今悩んでいることや聞いてみたいことがあれば、ぜひお聞かせください。
前田:そうですね。私がAI事業を始めて約3年になるのですが、特にここ1年でAI関連の起業家がどんどん増えてきました。AIは誰でも作れるという側面もあり、技術での差別化が非常に難しい。その中で、どうやって自社をブランディングしていくべきか悩んでいます。
山崎:なるほど。前田さんにとって、AIとはどういうものでしょうか。
前田:30年前のインターネットが「誰もが知識を自分で学べるようになった」ものだとすれば、AIは「誰もが自分で作りたいものを作れるようになった」ものだと捉えています。
山崎:そうですよね。言葉の定義はすごく大事で、どう捉えるかによって道筋は変わってきます。私もインターネット黎明期に起業していましたが、当時「これは時代が変わる」と直感しました。今回のAIには、インターネット以上の衝撃を感じ、「全振り」するべきだと考えました。
おっしゃる通りで、AIはツールです。最終的なジャッジメントは人間がすべきですが、そのための情報収集や何かを作り出す過程で絶大な効果を発揮します。ただ、本当の意味でのクリエイティブは、まだ少し時間がかかるかもしれない。これが一般的な認識だと思います。
今、経営者の方々はAIに対していくつかの階層に分かれています。技術の最先端やAIの未来をビジネス文脈で知りたいトップ層。AIを会社に導入し、組織としての価値をどう出すか考える中間層。そして、よく分からないから丸投げしたいという層。この3つの層のどこに向けて、何をやっていくのかを考えることが、これからの差別化につながるはずです。
比較対象はコンサルではなく「人件費」
山崎:ビジネスは太古の昔から「誰に、何を、いくらで売るか」だけだと私は思っています。AIがツールである以上、使い方次第で価値は変わる。御社は、誰に、何を、いくらで売ることで、クライアントを幸せにしたいですか。
前田:現状、AI顧問のサービスでは、50代、60代のレガシーな業界の経営者さんが多いです。何から始めていいか分からない方が多いので、まずは月5万円といった低価格から始めて、数ヶ月かけてAIで何ができるか理解していただき、そこから研修やシステム開発へとステップアップしていただく形をとっています。
山崎:なるほど。AI事業でこれから伸びる可能性を考えると、すごくシンプルに「人件費の代替」にならなければいけないと思うんです。
前田:人件費の代替、ですか。
山崎:はい。システムのアウトソースと考えると提供価値がぼやけてしまう。そうではなく、人件費をどう減らすかという代替手段として位置づけるべきです。今やホワイトカラーの仕事の9割はAIに代替される可能性があるほどのインパクトです。
特に日本企業は「人が足りない」と言いながら、いざとなると解雇しにくい。人がいないなら、その分をAIで補えばいい。これはチャンスなんです。新卒を一人採用すれば、給与や社会保険、採用・教育コストを考えると月50万円以上かかります。しかも、すぐに辞めてしまうリスクもある。
そこで「月50万円いただければ、新卒の方が出すアウトプットをはるかに超える成果を、我々がすべて代行します」と提案する。比較対象をコンサルティングやシステム導入ではなく、人件費に設定するんです。「うちのサービスは辞めませんし、ずっとサポートしますよ」と。
前田:なるほど。私たちは「AIの伴走支援」や「業務代行」という形でサービスを提供していますが、それを「AIコンサル」や「顧問」と呼ぶことに少し悩んでいました。
山崎:難しく考える必要はありません。「新卒を3人採用するのをやめてください。その分のコストで、比較にならない価値を提供します」と言えばいい。そうすれば、クライアントにとっての価値が明確になります。

日本人が世界で勝つための「ドラえもん型AI」という発想
山崎:ただ、日本企業がAI導入をためらう大きな理由が一つあります。それは「完璧さ」を求める国民性です。「AIが間違ったことを言うかもしれない」という不安が根強い。100%の正しさを求められると、AIの導入はなかなか進みません。
ここに大きなビジネスチャンスがあります。AIの技術革新を待つだけでなく、出てきたアウトプットを人の力でどうチェックし、精度を上げるか。例えば「AIだけだと精度は80%ですが、我々が入ることで95%になります」と示したり、万が一のミスをどう保証するかの仕組みを組み合わせたりする。そうすることで、日本企業が安心できるサービスが生まれるはずです。
前田:請求書処理をAIで代替し、最終チェックは人間が行う、というようなサービスは有効でしょうか。
山崎:有効だと思います。ただし、「人間がチェックするから安心」という前時代的なアピールでは不十分です。我々はAIのプロとして、AIによるミス率と、人間が介在することでどれだけミス率を下げられるかを科学的に示すべきです。その上で、クライアントから見て安心感があり、人間味を感じられる部分や、何かあった時のリカバリー体制を売りにする。
日本人って真面目で、ちゃんとしていますよね。この特性こそ、世界のAI市場で日本人が勝てるポイントだと私は思っています。お客様に不快な思いをさせない配慮や、納得感のあるリカバリー能力。こうした「安心感」をどうサービスに組み込むか。ここに日本のチャンスがあるはずです。
前田:海外のAIのイメージが「ターミネーター」で、日本のイメージが「ドラえもん」という話に近いですね。
山崎:まさにドラえもんです。日本では、AIは「友達」にならなければ受け入れられません。技術力で「こんなことできます」と誇示するマッチョな戦い方は、巨額の資金を投じる海外企業に任せればいい。私たちは、彼らが作った技術を使いこなしながら、いかに人々の心に寄り添い、温かみのあるサービスとして提供できるかで勝負すべきです。
それが、日本らしいAIのあり方であり、そのコンセプトで世界に出て行っても、決して負けることはないと思います。

弱者の戦略で、日本から世界へ
前田:私はもともと、日本から世界で勝ちたいという思いが強くあります。今お話しいただいたような戦略で、世界でも戦えるでしょうか。
山崎:戦えます。私も常に世界一になりたいと考えてきました。ただ、私は自分のことを能力が高い人間だと思ったことは一度もありません。だからこそ、自分のような人間が勝つためにはどうすればいいかを考え抜きました。それが「弱者の戦略」です。
前田:なるほど。ではその考え方でいくと、シニア向けのAIもまだ可能性があるということでしょうか?
山崎:私は全然あると思います。以前、シニアマーケットで事業を立ち上げたのは、日本一になれば、同時に世界一になれる市場だったからです。当時の日本は世界で最も速く高齢化が進んでいた。つまり、日本で成功モデルを作れば、それを世界に展開できると考えたのです。
世界中の論文を読み漁り、自分で理論を構築し、この分野の第一人者になることを目指しました。結果として、国連の会議に日本代表団の一員として参加したり、私の本が海外で翻訳出版されたりしました。これがマーケットの切り取り方です。
弱者には弱者の、そして日本人には日本人の戦い方があります。世界で評価されている日本人の強みは、民度の高さや優しさ、コミュニティを大切にする心です。その強みを活かして、「AIの侘び寂び」や「共同体を守るAI」といった、少し変わっているけれど日本らしいコンセプトを打ち出していく。
単にAIのアウトプットを出すだけでなく、そこには人の温もりや他者への思いやりを込める思想がある。そうした哲学をサービス体系に落とし込むことで、他社にはない独自の価値が生まれます。
前田:はい。
山崎:技術開発競争に巻き込まれるのではなく、人々がAIに求める本質を見極め、そこにリソースを集中投下する。そうすれば、必ず勝ち筋は見えてきます。ぜひ、日本発の面白いAIサポートサービスを作ってください。
今日のメッセージは、「世界で戦うには、日本人らしさで戦え」ということです。AIを単なる技術としてではなく、人間社会をより良くし、人の心に寄り添うためのツールとして捉え、日本らしいサービスを創造していただければと思います。本日はありがとうございました。
前田:ありがとうございました。

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Future Leaders Hub 編集部 