「好きな服が買いたい」から始まった異色キャリア。“大手通信会社勤務⇒IT起業⇒結婚相談所社長”を選んだ経営者の哲学
元NTTデータ、IT企業の創業者、そして現在は結婚相談所の社長。株式会社ハッピーカムカムの代表取締役社長、峰尾晋一氏のキャリアは、一見すると脈絡のない道のりに見えるかもしれません。
しかし、その根底には「好きな服が買いたい」という純粋な動機から、仕事の本当の喜びに至るまで、一本の太い芯が通っています。
研究者を目指した学生が、なぜITの世界へ飛び込み、人の縁を結ぶ仕事にたどり着いたのか。異色のキャリアパスに迫ります。
研究者志望からIT業界へ、予期せぬキャリアの幕開け
「もともと会社勤めをするつもりはなかった」と峰尾氏は振り返ります。
学生時代は明治大学文学部でイタリアの歴史を研究し、そのまま大学院へ進み、研究職に就くことを目指していました。しかし、大学3年時に半年ほどイタリアへ滞在し帰国すると、事態は一変します。
「日本に戻ってきたら、進みたいと考えていた研究室の席が埋まってしまっていたんです。余裕で行けるかなと思ったんですけど、まさかの展開でした」
そうして大学院への道が閉ざされたのは、大学4年の5月。多くの企業の採用活動が終盤に差し掛かる時期でした。急遽、就職活動をせざるを得なくなった峰尾氏。その時期まで採用試験を行っていたのが、たまたまNTTデータだったのです。
「そこしか受けていなかったんです。大学時代にITを専門的に学んだ経験は一切なかったですし、エントリーシートを書いたのが初めてITの世界に触れた機会だったかもしれないくらいです」
こうして、峰尾氏の社会人としてのキャリアは、予期せぬ形で幕を開けたのです。
起業の原動力は「ヴェルサーチェへの憧れ」

NTTデータに入社した当初は、そのまま勤め続けるつもりでした。しかし、その考えはすぐに揺らぎ始めます。きっかけは、高校時代から憧れていたブランド「ヴェルサーチェ」の存在でした。
「一流企業に入れば、好きな服くらいは買えるんじゃないかなって思っていたんです。でも実際に全然買えませんでしたね」
社長の年収を聞いた際、思わず「安い」と言ってしまったこともあると明かします。このままでは憧れの服すら手に入らない。その思いが、峰尾氏を新たな道へと突き動かしました。
入社からわずか1年。「ヴェルサーチェの服を買うため」が、NTTデータを退社し、起業するという大きな決断の裏にあった原動力だったのでした。
異業種への挑戦と「過去の経験」の活かし方
NTTデータを退社後、峰尾氏はSEOとWeb制作を手がけるIT企業を設立。10年間経営し、会社を売却します。
「もしITがすごく好きだったら、そもそもNTTデータは1年で辞めてないと思います。10年で会社を売ったのも、ずっとIT業界で生きていこうとは考えていなかったからでした」
その後、1年間の充電期間を経て、知人が経営していた結婚相談所の会社を買い取り、代表に就任します。畑違いとも思える業界への転身。そこには、IT業界での経験に裏打ちされた確かな勝算がありました。
「業界的にもITに対する知識のない方が少なくないので、余裕で勝てるなと思っていたんです。好きではないが、ツールとしては使いこなせる。かつて培ったWeb制作やSEOの知識を活かせば、集客で優位に立てると考えていました」
異業種への挑戦は、過去の経験を新たなフィールドで応用する、したたかな戦略でもありました。
「円満退社しとけ」過去の自分と、これからの若者へ
「もし新入社員時代の自分にアドバイスするなら何を伝えますか」と問うと「円満退社しとけ、とりあえず」と即答。独立当時は起業を急ぐあまり、焦りがあったかもしれないと振り返ります。
「会社もやめた後も同僚とはどこでどういう関係があるかわかんないですよね。どんな縁が繋がるかわからないからこそ、人間関係を大事にして、円満に会社を離れることは大切だと思います」
さらに、もし今の時代に学生だったら、どんな働き方を選ぶのでしょうか。峰尾氏は「インターンシップや起業など、学生のうちに社会人経験を積むことを選ぶ」と断言します。
「今は少額で起業でき、SNSなどで自身のプラットフォームを構築することも可能です。会社に100%依存しない選択肢を作った上で会社勤めしたかもしれないですね」
会社員として働きつつも、副業や個人の活動で別の選択肢を持っておく。そんな多様な働き方が今の学生には可能だと考えているそうです。
あえて「終身雇用」を掲げる理由
最後に峰尾氏が経営を続けるうえで大切にしていることを聞くと、またしても意外な言葉が返ってきました。
「なにより大事にしたいのは『終身雇用』って言っているんです」
転職が当たり前になった時代に、あえて「終身雇用」を掲げる。その真意は、社員が安心して長く働ける環境こそが、最高のパフォーマンスを生むという信念にあります。
「去年の自分よりも来年の自分の方が成長しているわけだから、その分給料が上がっているほうが安定して自分のパフォーマンスを安心して出しやすいですよね」
副業も認め、会社に依存せず、自分の力で稼ぐスキルを身につけることは推奨しつつも、ひとつの会社、ひとつの業界に長く身を置くことでしか得られないものがあると、峰尾氏は自身の経験から確信しています。

「やっぱりひとつの会社とか業界に10年いないとわからないこともやっぱりあると僕自身、実感しています。ずっといることで得られるものっていうのも結構あるんですよ」
異色のキャリアを歩んできたからこそ見えてきた、働き方の本質。峰尾氏の言葉は、働き方を考える若者にとって、大きなヒントとなるのではないでしょうか。
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Future Leaders Hub編集部