利益の3割を決算賞与で還元する建設会社 「社員は“コスト”ではない」4000万円赤字からV字回復させた経営哲学
「会社に入るのがゴールではない。そこで自分の目的を達成できるかどうかが大切」
そう語るのは、世田谷区の公共工事を担う株式会社マモルの代表取締役、新舘豊晃氏です。
かつて4000万円の赤字を抱えた会社をV字回復させた手腕の裏には、「社員の幸せ」を徹底的に追求する独自の経営哲学がありました。新舘氏が考えるこれからの時代の働き方、そして若者たちへのメッセージとは。その情熱的な想いに迫ります。
会社はゴールじゃない。自分の人生をどう歩みたいか
「もし今、就職活動を始める学生の立場に戻ったら、どんな働き方を選びますか?」という問いに対し、新舘氏は「自分の目的や目標を達成できると思える会社に就職したい」と即答します。
「いい大学を出て、いい会社に入ったから安心という時代はもう終わってきています。大切なのは、自分自身がどういう人生を歩みたいか。会社は、その目的を達成するための場所にすぎません」
就職活動で多くの学生が行う自己分析。しかし、それはあくまで過去を振り返る作業です。新舘氏は、それ以上に「未来にどうなりたいか」というビジョンを持つことの重要性を説きます。
「学生時代から『自分はこういう道を歩みたいんだ』という芯が1本入っている人は強い。そういう人なら、どこの会社に入っても大丈夫だと思います」
会社に選ばれるのではなく、自分の人生の目的を達成するために会社を選ぶ。その視点こそが、変化の激しい時代を生き抜くための羅針盤となるのかもしれません。
とんでもなくしんどかったけど、自分を成長させた経験

新舘氏の社会人生活は「週末は必ず飲み歩いていた」という日々から始まりました。創業者の祖父は厳格で、幼い頃から会社を継ぐためのレールが敷かれていたといいます。大学卒業後、そのまま家業に入社し、言われたことをこなす毎日でした。しかし、20代半ばに大きな転機が訪れます。
「代表だった父が54歳の若さで急逝し、経理部長だった母も脳梗塞で倒れてしまったのです。それまでは言われたことをやっていればよかったですが、急に立場がバーンと上になって、『俺がやらなきゃいけないんだ』と」
その日から、新舘氏の生活は一変しました。朝5時に出社し、3時間猛勉強。その後、通常業務をこなし、夜は再びシステム改善に取り組む。帰宅は深夜12時を回ることも珍しくありませんでした。
「具体的には紙ベースのアナログな経費精算、古い会計ソフト。旧態依然とした社内の仕組みを、たった一人でクラウド化し、誰でも効率的に回せるシステムへと作り変えていったのです。あのときはとんでもなくしんどくて辛かった。でも、今思い返すと、自分を大きく成長させてくれた経験です。『あのときやったんだから』という自信が、今の自分を支えています」
立場が人を作る。責任ある立場に置かれたことで、新舘氏は自らの殻を破り、経営者としての覚醒を果たしたのです。
社員をコストとして捉えていた過去
仕事が楽しいと初めて思えたのは、いつだったのでしょうか。
「まさに、会社のシステムを全部入れ替えたときですね。みんなから『楽になったよ』と感謝されたとき、本当に嬉しかった」
新舘氏の根底には、「人を幸せにしたい、そして感謝されたい」という強い想いがあります。
「社長に就任した当初は、4000万円の赤字を前に、社員をコストとして捉え、経費削減に躍起になった時期もありました。しかし、『これでは誰も幸せにならない』と今では考えを改めました。現在は『どうすればみんなが楽しく仕事できるか』を第一に考えています」
会議を飲み会形式にしたり、利益が出たら決算賞与として社員に分配したり。社員に「Give」をすることで、会社全体の雰囲気が劇的に変わりました。
「Giveをすると、みんながGiveで返してくれるんです。ますます頑張るようになって、楽しそうに仕事をしてくれる。そういう関係性の会社は強いですよ」
現在、マモルでは利益の3割を決算賞与として社員に還元しています。すると、社員一人ひとりが「自分の給料に直結する」という経営者意識を持つようになりました。
「人の力、組織の力って、僕が考えていた以上にすごい。誰かの不幸の上に立つ幸せは違う。働いている人も、周りも幸せ。そういう会社でありたいんです」
現場のコスト管理はよりシビアになり、コストを抑える好事例は積極的に共有される。互いに教え合うことで全体の利益水準が上がり、それがまた社員の所得として返ってくる。まさに理想的なwin-winの好循環が生まれているのです。
これからの時代に必ず求められるスキル

最後に、新入社員時代を振り返ってもらったところ、「飲み歩いていたのは、そんなに悪いことじゃなかったかな」と新舘氏は笑いました。
「いろんな人と触れ合って、『こういう人もいるんだな』と知ることは大切。特にこれからのAI時代、事務的な仕事が淘汰されていく中で、ソーシャルスキルやコミュニケーション能力といった、人でしかできないことの価値は必ずますます高まっていきます」
マモルの現場代理人という仕事も、役所や協力会社、近隣住民など、多くの人との対話が不可欠な、まさにソーシャルスキルが問われる仕事です。
「だからこそ、一緒に働きたいのは、素直で、物事を面白がって楽しめる、思いやりのある人ですね」
社員を家族のように思い、その幸せを心から願う。その想いが社員一人ひとりに伝播し、会社を動かす大きな力となる。力強い成長の根源は新舘氏の温かい人間性と、人を信じる力にあるのかもしれません。
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Future Leaders Hub 編集部