「大学生のまま」でいる必要はない…現役大学生起業家が悩む“30代上場への最短距離”
自身も学生起業の経験を持ち、数多くの大企業で経営参謀を務めてきた株式会社サクラサク代表取締役・山崎伸治氏が、次世代を担うZ世代経営者の悩みに答え、ともに将来を切り開いていく「Special Mentor」。
今回のゲストは、一般社団法人FEA農研 代表取締役の糸永季生氏。法政大学2年生にして農業コンサルタントとして活動し、農家の生産から販売まで一括でサポートするビジネスを展開する。「関わるすべての人を笑顔にしたい」という大きな夢を持ちながら、30代での上場を目指す糸永氏が今まさに直面している悩みとは何か。そして山崎氏はどんなアドバイスを贈ったのか。

強みの言語化こそが、最初の壁
山崎:まず、今取り組んでいる事業について教えてください。
糸永:農家さんに対して月10万〜20万円程度の固定費プラス成果報酬型で、生産から販売まですべてをサポートするコンサルティングを提供しています。私自身がもともとシステムエンジニアを目指して機械学習を勉強してきたので、農家さんのこれまでの熟練した技術をAIに落とし込み、作業を単純化・効率化するところを担当しています。販売面では若手ならではの営業力が強みだと思っています。
山崎:「若手の営業力」という言葉が出ましたが、もう少し具体的に言語化できますか。
糸永:正直、まだそこが自分の中で足りていない部分だと感じています。感謝をストレートに伝えられることや、素直に解決しようとする姿勢が強みだと思っているんですが、それが言葉として整理しきれていないなと。
山崎:そこは非常に重要なポイントです。「営業力が強い」という言い方だけでは、正直弱い。証明のしようがないし、同じことを言っている会社はたくさんある。でも、今の糸永さんには「大学生である」という圧倒的なアドバンテージがある。それをもっと際立たせる必要があります。
私のところには月に約40社が事業計画書を持って投資の相談に来ます。みんな「うちが一番です」と言うけれど、並べて見るとそうでないケースがほとんどです。大事なのは、自分たちにしかない強みを、きちっと言語化できるかどうかです。
「農家の孫目線」が生む唯一無二の接点

糸永:「大学生であること」を具体的にどう生かせばよいのでしょうか。
農家の方々って、下手すると自分のおじいちゃんやおばあちゃんくらいの世代の方もいらっしゃる。そこに、スーツを着て難しい言葉を並べる人が来るより、「今ちょっと勉強中なんですけど」と言いながら来てくれる大学生のほうが、距離が縮まる場合があります。孫を見るような目で迎えてもらえるという部分は、むしろ圧倒的なアドバンテージです。
一方でAIや機械学習の話になると、農家さんに「教師データって何ですか」と言っても、まったく伝わらなかった経験がありました。
山崎:その経験から、どう変えていきましたか。
糸永:最初はかなりしっかりとした資料を持って行っていたんですが、農業の専門用語を使っても通じず、AIの話をしても「何それ」という反応でした。ある日、資料を3段階ほど落として、4〜5ワードしか書いていないシンプルなものを持って行ったんです。そのときに初めて農家さんと本当の意味で分かり合えた感覚がありました。
同時に、農家さんが使う専門用語は徹底的に覚えようと、社員と勉強会を開いてワード集まで作りました。農家さんが何を言っても絶対に分かる。でも、こちらは簡単に説明する。その徹底が、契約数が一気に伸びた瞬間でした。
山崎:まさに正しいアプローチです。本当に優秀な先生は、難しいことを簡単に言える人です。能力のない人ほど難しい言葉を並べてごまかす。ビジネスを簡単に語れない人はだめだと、私はずっと言い続けています。農業については「教えてください」でいい。その代わり、AI活用と効率化については圧倒的なノウハウがあるというポジションで行けば、それで十分です。
糸永:ありがとうございます。
ビジネスの軸足をずらさずに、ピボットせよ
山崎:農業と絡めた新しいビジネスのアイデアとして、お寺の宿坊ビジネスや精進料理との連携を考えているそうですね。
糸永:農家さんが作る素晴らしい野菜が安売りされてしまっているという課題を感じています。日本の熟練した農家さんの技術で作られたものが、市場価値として正当に評価されていない。それをインバウンド需要と絡めて、例えばお寺での精進料理や健康ビジネスと組み合わせれば、可能性があるんじゃないかと思っています。
山崎:そのアイデアについて、率直に言います。宿坊ビジネス自体はすでにかなり多くのプレイヤーがいる分野です。スタートアップの若い人たちの中でもやっているところが結構あります。お寺の場所を使った宿泊の仕組みは今どんどん広がっている。そこに精進料理だから野菜をというのは、農業ビジネスからかなり軸足がずれてしまいます。
ビジネスはバスケットボールのピボットと同じです。軸足をしっかりと置いた上でピボットしていく。軸足をずらしてしまうとトラベリングになる。今の糸永さんの軸足は農家さんとのネットワーク、そして野菜そのものです。そこから離れすぎずにピボットしていく考え方が重要です。
糸永:軸足を置きながら広げるとしたら、どんな方向性が考えられますか?
山崎:農家の方々が感覚値として持っている熟練の技術を言語化して教科書にし、これから農業を始める人たちに販売するという方向もある。あるいは日本の狭小地での農業のやり方は、東南アジアやアフリカの農業に活かせるノウハウとして輸出できるかもしれません。
それから、農家の方々は金融的な知識がない方も多い。JAの言われるままになっているケースも多い。農業と金融はものすごく相性がいいと、私は投資家として実感しています。実際に私はカンボジアに農業銀行を作り、トラクターやコンバインを購入・レンタルするための融資をしてきました。農家向けのスモールファイナンスは、これからの日本でも十分可能性があります。
糸永:とても勉強になります。
「大学生のまま」でいる必要はない

山崎:30代での上場を目指しているとのことですが、今の自分の弱みはどこにあると思いますか。
糸永:経済や金融の知識が薄いところが、自分の中でずっと気になっています。農業もAIも国際系の勉強もしているけれど、お金に対する感覚が弱い。将来的には金融業界を経験することも考えています。就職を一度経験するという選択肢について、どう思いますか。
山崎:大学3年、4年になったとき、「このまま起業家として続けるのか、一旦就職するのか」という悩みが必ず来ます。でも、就職は逃げでも負けでもない。
私自身、18歳で起業して大学在学中に事業を大きくしましたが、「今の自分の器以上に会社は大きくならない」と気づきました。器のままでいったら、ラッキーパンチで100億には届くかもしれないけれど、世界は変えられない。だから長銀に入り、スイス銀行に行き、米国戦略コンサルのベインで学んで、29歳で再起業し、34歳で上場しました。
ご自身が30代での上場を目指しているなら、35歳に設定して、その間に大企業で一度働いてみるという選択肢もある。大企業の使い方が分かると、あとでレバレッジが効きます。
糸永:起業家として一直線に進まなければいけない、という思い込みがありました。
山崎:それはナンセンスです。結局、経営者として戦うのは総合格闘技です。自分のキャパシティ、ノウハウ、ネットワーク、人間的魅力、そのすべてが総合力になる。今やれることを精一杯やりながら、器を広げていく道を柔軟に選んでいい。
AIの時代に、大学生が持つ本当の可能性
糸永:AIがここまで発展した時代に、もし山崎さんが今の大学生だったら、どんなビジネスをしますか。
山崎:AIを本当の意味で使いこなせている人は、ビジネスマンの中でも5%もいないと思います。地方の中小企業やシニアの経営者の方々は「よく分からない」というのが正直なところです。シニアの方がスマホを持てずガラケーのままでいるのと同じ構図です。
だとすると、AIを使いこなしてあげるサービスを大学生がやるというのは、ものすごいビジネスチャンスだと思います。ChatGPTがいいのかGeminiがいいのか、リサーチにはどれを使うのか、それを見極めて使いこなし、答えを出してあげる仕組みを作る。「あなたのためのAIエージェント」として、中小企業の社長をアウトソーサーとしてサポートする。AIで自動化できている部分が大きければ、1000社のサポートをしても大した労力ではありません。
糸永:農業×AIというテーマも、まだまだ可能性があると感じていますか。
山崎:ドローンを使った精密農薬散布のアイデアを糸永さんが話してくれましたが、ドローンを活用したデジタル農業は東南アジアでも急速に進んでいます。農業分野に飛び込むスタートアップはまだ少なく、助成金も比較的充実している。夢のあるスタートアップの分野の一つは間違いなく農業です。

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Future Leaders Hub 編集部 