株主総会を「会社の魅力をプレゼンする場」に変えたキーコーヒー社長・柴田裕の経営哲学
「一杯のコーヒーが、人生を豊かにする」
物心ついた頃から、自然とコーヒーを飲んでいたというキーコーヒー代表取締役社長の柴田裕氏。「世界とつながる仕事がしたい」という漠然とした思いを抱いていた学生時代、インドネシアの農園でコーヒー産地を支える取り組みを目の当たりにし、祖父が創業したキーコーヒーへの入社を決意する。
38歳での社長就任以来、日本独自の喫茶文化を守り、次世代へ継承していくために奔走する柴田氏の原動力は何か。情熱の源泉はどこにあるのか。今回は、同氏が歩んできたライフストーリーとともに、「珈琲とKISSAのサステナブルカンパニー」を掲げるキーコーヒーの目指す未来像について紐解いていく。
なぜコーヒーを飲むと「大人」に感じるのか?

── 幼い頃からコーヒーが身近にある環境で育ってきたのでしょうか?
物心ついた頃から、気づけばいつもコーヒーを飲んでいました。3歳になる頃にはコーヒーを飲むのが習慣になっていたのですが、最初はミルクと砂糖をたっぷり入れていましたね。でも、いつの間にかブラックで飲むようになりました。
コーヒーと“大人らしさ”は結びつくところがあると思っていて、その理由は味そのものというより、コーヒーを飲む時間の使い方にある気がしています。コーヒーを飲みながら物事を考えたり、誰かと話したりする。そうした時間や振る舞いが、大人の世界に触れている感覚を生むのではと思いますね。
── 20代の頃に没頭したことは何でしょうか。
学校の勉強以外にも、スペイン語に興味を持ち、学外でスペイン語教室に通っていました。将来に役立てようとしたわけではなく、純粋にスペイン語の音の響きに惹かれたからです。
昔からラテン音楽をよく聴いていたことがきっかけで、その言葉のリズムや響きに惹かれ、歌詞の意味まで知りたいと思うようになり、自然と学びに行くようになったという感じです。
スペイン留学で見えた「日本独自のコーヒー文化」

── 学生時代は、キーコーヒーに入社することに対する意識はそれほど強くなかったのでしょうか?
何か世界とつながる仕事がしたいという漠然とした思いはありましたが、キーコーヒーに入社するとは正直考えてもいませんでした。ただ、大学在学中にインドネシア・スラウェシ島のトラジャ地方にあるキーコーヒーの直営農園を訪問する機会があり、現地のインフラ整備のお手伝いをはじめ、不便な生活環境を少しずつ改善していく関わり方を見て、「コーヒーは大変だけど、素晴らしい仕事だ」と感じ、入社を決めたんです。
入社後はさまざまな業務を覚えていくなかで、入社4年目の頃にキーコーヒーの上場準備チームに最年少スタッフとして参加しました。先輩たちが作成した資料をもとに役員へ説明する段取りを整えるなど、私が全体の手配や質問対応を担当していました。当時は、すべての資料が紙ベースだったので非常に大変でした。
また、コーヒーや会社のことは必死に勉強していましたが、当時は証券業界や投資家といったIRの世界はまったく知らず、専門用語や市場の視点を理解するのに苦労しましたね。今振り返れば、実務を通じて多くを学ぶ貴重な経験だったなと感じています。
── スペインに留学した経験もあるそうですね。
上場チームのプロジェクトが一段落して30歳を迎えたタイミングで、MBAを取得するために社会人大学院へ進学し、その課程でスペインへ留学しました。
スペインでは、同級生たちとよくバルでエスプレッソを飲んでいました。スペインの方はもちろん、アメリカやヨーロッパ北部からの留学生とも交流を深めたのですが、各国のコーヒーの飲み方について話し合うのはとても面白かったですね。
私が留学したスペインやイタリアではコーヒーを嗜む場所はバルが主流ですが、日本では喫茶店や自動販売機など、手軽にコーヒーを楽しめるさまざまな場所や方法があるのが特徴です。ヨーロッパとはまた違った、コーヒーを堪能できる日本独自の文化を再発見する機会にもなりました。
株主総会は「自社の魅力を伝えるプレゼンの場」
── 若い頃の失敗談が何かあれば教えてください。
今振り返ると、もう少し臆せず挑戦すればよかったなと思いますね。失敗を恐れてできなかったことや、先輩に任せてしまった機会がいくつもありました。
若手のうちは、仕事を誰が担当するかという話になった時などに「自分がやります」と言い出しにくい面もあるでしょうが、若いうちだからこそ挑戦できることがあると思います。挑戦できる、という若さの特権を活かしていろんなことに取り組んでほしいですね。
── 38歳でキーコーヒーの社長に就任され、最初に取り組んだのはどんなことだったんですか?
最初は、既存の業務を踏襲することだけでも精一杯でした。そんな中で改革に取り組んだのは、年に一度の株主総会です。会社にとって重要なイベントですが、それを「単なる事業報告の場」ではなく、「会社の魅力をプレゼンテーションする場にしよう」と考えました。
上場チーム時代の経験から、業績を数値で示すハードな面だけではなく、会社の魅力となるソフトな面も伝えるべきだと感じていました。そのため、株主総会ではコーヒーの魅力や自社の取り組みを伝えることも大切にしてきました。その姿勢は今も変わらず、株主総会だけでなく決算発表会やメディアの取材を受ける際にも心掛けています。
「喫茶店」の魅力を次世代に繋げていく

── キーコーヒーは「2030年のあるべき姿」として「珈琲とKISSAのサステナブルカンパニー」を掲げていますが、若い世代にコーヒー文化を広げるポイントは何だとお考えですか?
もちろん、すべての生活者にコーヒーのよさを伝えたいですが、特に若い方を中心に喫茶文化の魅力を発見してもらいたいと思っています。私たち世代の喫茶文化を守りつつ、若い世代ならではの新しい楽しみ方を見つけてもらい、未来に継承してほしいと願っています。
喫茶という表記をあえてローマ字で「KISSA」にしたのは、若い方や外国の方にも興味を持ってもらいたいという思いからです。喫茶店は、コーヒーはもちろん、それ以外のクリームソーダやプリンアラモードなどのメニュー、インテリアやカップなど、空間そのものが楽しめるとても魅力的な場所です。地方の特産品を使ったメニューを用意している喫茶店もありますし、さまざまな切り口から「自分ならではの喫茶店の魅力」を探るのも面白いと思います。
当社が発刊している広報誌では、必ず各地の喫茶店を紹介しているのですが、読者の方が、旅行の際にその喫茶店を実際に訪れてくださることもあり、本当に嬉しく感じますね。
<構成/古田島大介 撮影/林 紘輝>
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Future Leaders Hub 編集部