「アメリカン、ちょっと濃いめで」…コーヒーが呼び起こしてくれる“あの日の記憶”【編集後記】
食べ物や飲み物には不思議な力があります。大きくは4つでしょうか。
①身体の栄養
②心の栄養
③会話のエンジン
④思い出の文鎮
①は言うまでもなく、からだをつくる力。②は、こころを満たす力。私が元気を出したいときには、スタミナ丼を食べて胃袋もハートも満タンにしています。
大人になると、特にそのパワーを実感するのが、③の「会話のエンジン」です。夜の会食だけでなく、朝食会やランチミーティングなどに参加することがありますが、誰かと食事をしながら会話をすると、普通の立ち話や会議室では出てこないアイデアや絆がどんどん生まれてきます。
④の「思い出の文鎮」は、イメージできますか? 何気ない一皿や一杯に、記憶がそっと重なっていく、そんな感じです。
「食べる」「飲む」は記憶と結びつく
子どもの頃、母がつくるコロッケが大好きでした。小麦粉と卵とパン粉をつけるのは、私と妹の仕事。いつもお腹が苦しくなるまで食べていました。
子どもの頃は、なぜかトマトが苦手で食べられませんでした。大学生になって一人旅で放浪していた時のこと。お世話になったウズベキスタンのご家庭で、トマトが出てきました。残すのも悪いと思って口に運んだのですが、そのみずみずしいこと! なぜこんな美味しいものが苦手だったのでしょうか。
大学生のときに友達と挑戦したスタミナ丼の大盛。完食できたときは達成感でいっぱいでした。今では大盛にはしませんが、これを食べると元気が出るのは、あの時の思い出とひもづいているからだと思います。
「食べる」「飲む」という行為は、五感をフルに使います。その分、さまざまな記憶と結びつきやすい特徴があります。そんな「記憶を留める力/思い出に重さを与える力」が、食べ物や飲み物には確かにあるのだと思います。
私にとって「コーヒー」という飲み物は、「心の栄養」や「会話のエンジン」として欠かせない存在です。ただ、それだけでなく、これまでの人生の「思い出の文鎮」としても重要なアイテムだったことに、今回、キーコーヒーの柴田裕社長にインタビューしたことで気づかされました。
「アメリカン、ちょっと濃いめで」の記憶

小学校低学年の頃、親戚の家で飲んでみた缶コーヒーがおいしくて、「ボク、コーヒー飲めるようになった!」と自慢したら、「すごいねぇ」とみんながほめてくれたこと。ミルクも砂糖もたっぷり入った缶コーヒーでしたが、当時の自分は満足感でいっぱいでした。
大学生でエチオピアを旅していた時に、道端で「コーヒーを飲んでいかないかい?」と呼び止められたこと。「ぜひ」と答えると小屋の中から中華鍋とコンロが出てきて、コーヒー豆の焙煎が始まりました。日本ではほぼありえない体験で、コーヒーの味にもおもてなしにも感動しました。
動画の中では、大学受験のときに入った喫茶店のエピソードを語りました。実はそれには続きがあります。
当時はメニューを見てもよくわからず、「じゃあ、このアメリカンをお願いします」と注文しました。オーダー直後、試験本番に向けて少ししゃきっとできるかなと思いつき「ちょっと濃いめにできますか?」とお願いしてしまいました。
アメリカンが苦みを抑えた薄めのコーヒーだと、当時は知りませんでした。当然、マスターが苦笑いしていた理由も、そのときはわかりませんでした。(ちなみに、その試験は合格できました。あの喫茶店のおかげかもしれません。)
世界を広げてくれる不思議な力
柴田社長も、バルセロナの大学に通っていた時に、他の国から来た学生たちと飲んだコーヒーの思い出を教えてくれました。話を聞きながら、私も飲んでみたいなぁと、素直に思いました。
もしかしたら、食べ物や飲み物の不思議な力には、もうひとつあるのかもしれません。
⑤好奇心の種
時代や空間をつなげて、世界を広げてくれる力。
自分も飲んでみたい、食べてみたい、体験してみたい。そんな気持ちをそっと呼び起こし、新しい世界への視野を広げてくれる力です。
あなたにステキな力を与えてくれるのは、どんな食べ物や飲み物でしょうか。
<文/清水俊宏 撮影/林 紘輝>
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