数字の裏にあるものを“当事者”として見ていきたい」変革を進める老舗会計事務所、事業継承者の挑戦
「日本も海外もまだまだ明るいので、若い人たちとは一緒に新しい世界を作っていきたいですね」
そう力強く語るのは、あさひ会計事務所の江野澤藤利氏です。千葉県四街道市で約50年の歴史を持つ会計事務所を事業承継し、伝統的なスタイルからの変革に挑んでいます。
クライアントの数字と向き合うだけでなく、その裏にある本質を追求し、共に成長していく。そんな彼の情熱はどこから来るのでしょうか。会計業務の本質から、意外な経歴、そして未来を担う若者へのメッセージまで、その熱意の源泉に迫ります。
50年間続いた事務所を事業継承
あさひ会計事務所は、千葉県四街道市周辺の法人・個人事業主を中心に、税務業務や会計監査、財務支援などを提供する地域に根差した会計事務所です。現在、約180社の法人顧客を抱えています。
「この事務所を立ち上げたのは、現在83歳になる創業者です。私は2年ほど前から、事業承継の予定で事務所に入りました。実は事業承継を失敗しまくっていて。私も5人目ぐらいらしいんです」
そう笑いながら語る江野澤氏。一筋縄ではいかなかった承継の道のりも、今では創業者と「仲良くやっています」と話します。しかし、50年間続いた事務所には、大きな課題もありました。
「ずっとやり続けているスタイルがもうザ・アナログなんです。一軒一軒回って、資料も足で取りに行って、会計入力してまた返すっていう……。DXを速やかに進めたいですね」
伝統を守りながらも、時代の変化に対応していく。その変革のかじ取りが、今まさに江野澤氏の双肩にかかっているのです。
数字の裏にあるものを“当事者”として見る
経営者として、江野澤氏が大切にしている軸は2つあると言います。一つは「本質を見抜く、追求すること」。
「会計事務所は、お客様が作ってくれた数字を入力して渡すだけになりがちです。でも、その数字自体がどうやって上がってきたのか、その経費が何のために、どういう目的で使われたのか。その根本にある意図を追求して、経営者の方がどう考えているのかを理解するようにしています」
数字はただの記号ではありません。そこには経営者の想いや戦略、そして汗が詰まっています。その本質を理解することから、真のサポートが始まると江野澤氏は考えています。
そしてもう一つが「当事者意識を持つこと」です。
「目の前にある数字を、本当に自分ごととして捉える。この経営者の方々がどういう気持ちで、何を意図して作ったのかなというところに、なるべく自分も同じ立場になって、その数字の裏にあるものや将来的なものも見るようにしています」
第三者としてではなく、伴走者として。この2つの理念が、クライアントとの深い信頼関係を築く礎となっています。
将来を見据えて自己投資をすることの重要性

もし今の時代に新卒に戻れるとしたら、どんな働き方を選ぶか。江野澤氏の20代は、どのような時間だったのでしょうか。
「大学生の頃は、サークルやバイトに明け暮れる普通の学生でしたね。サークルは4大学合同のインカレでスポーツを楽しみ、アルバイトは塾講師やゴルフのキャディー、さらには日本テレビでスポーツ中継を担当するなど、多彩な経験を積みました。特に。一瞬一瞬の判断が求められるテレビ局でのアルバイト経験は今に生きている気がします」
そんな充実した学生時代を過ごした江野澤氏が、もし20代の自分にアドバイスするとしたら、どんな言葉をかけるのでしょうか。
「周囲に流されないでしっかりと自分を持って、チャレンジすればいいんじゃないかなと。あの頃の、目の前のお金とか、彼女とかっていうところに溺れず、もっと将来を見据えて自己投資をするのも大事だよって感じですかね」
若さゆえの欲望も肯定しつつ、未来の自分への投資がいかに重要かを、実感を込めて語ってくれました。
「本質を追求する」という理念につながる経験
仕事が楽しい、達成感を得られたと思えた瞬間について尋ねると、江野澤氏は会計業務とは少し違う経験を語り始めました。
「監査法人に入ったあと、友人と障害者福祉施設をやり始めたんです。そちらのほうが、障害者の方々と日々接するので、彼らとの時間はなかなか貴重なところでしたね」
そこでのコミュニケーションは、建前が一切通用しない、本質的なものだったと言います。
「障害者の方々って、オブラートに包むことがないので、本能のままに接してくれるんです。だから、こっちも変に忖度するのではなく、体当たりでいかなきゃいけない部分もあって。わかり合えたときは、すごくいい経験だった気がします」
ストレートに人と向き合うこと。この経験が、現在の「本質を追求する」という理念にもつながっているのかもしれません。
未来に向かった会計業務へシフト

江野澤氏が見据えるのは、事務所のDXだけではありません。その先には、会計業界の未来を変えるほどの大きなビジョンが広がっています。
「もらった数字を後追いで報告する業務ではなく、先々を見据えた、未来に向かった会計業務のほうにシフトしていきたいです。そのほかにも新規事業もいくつか立ち上げるための準備を進めています。あとは、速読やコーチングといった分野にも挑戦し、それをフックに新たな顧客との接点を生み出すことも計画中です」
さらに会計事務所業界全体が抱える高齢化と事業承継の問題にも目を向けているようです。
「今後は提携する事務所を増やしていきながら、規模の拡大もしていきます。また、アジアを中心に海外へ展開していきたいと考えています。一番行きたいのはインドネシアです」
人口減少が進む日本だけでなく、成長著しいアジアのマーケットに、会計事務所として新たな活路を見出そうとしています。過去の経験を糧に現状の課題に真面目に向き合い、そして未来への大きな夢を描く。江野澤藤利氏の挑戦はまだ始まったばかりのようです。
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Future Leaders Hub 編集部