ソフトバンク元幹部が明かす“挫折率6%”の秘密…「教育で儲けた人はいないぞ」孫正義氏の言葉に屈しなかったワケ
「孫正義氏の右腕」として、ソフトバンクではさまざまな事業を経験。その後、英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を立ち上げたのが、トライズ株式会社代表取締役社長の三木雄信氏だ。
大学時代には孫氏の実弟である孫泰蔵氏と家庭教師の派遣会社を設立し、若くして起業家マインドを磨いてきた。自身の英語力不足という苦い経験を原動力に、経営者の道を選んだ三木氏のライフストーリーに迫っていく。
「起業家マインド」を育てた学友の存在

── 三木さんが学生時代に打ち込んだことは何かありますか?
私は子どものころからずっと「社長になりたい」と思っていました。大学では経済学部経営学科に入りましたが、当時は出席よりも試験重視の大学で、授業にはあまり行かずに自由に過ごしていました。
その代わり、ビジネスの種を見つけるために海外へ行っていました。ただ、その頃は英語が話せなかったので、いろいろと苦労しながら、あちこち放浪していた時期でしたね。それでもIT系のゼミだけは熱心に取り組んでいて、そのためだけに大学へ行くような感じでした。
あと、実は大学在学中に孫泰蔵さんと一緒に、「Indigo(インディゴ)」という家庭教師派遣の会社を立ち上げ、東大生を集めて家庭教師として派遣するビジネスをやっていました。私が新卒で三菱地所に入社してからも副業として続けていましたが、当時は副業自体がほとんど認められていない時代で、今振り返るとかなり型破りなことをしていたなと思います。
私が学生起業した背景には、母校である九州の久留米大学付設高校の環境がありました。東京と違って親が大企業に勤める同級生は少なく、特に文系は自営業の家庭が多かったんですよ。そのため、周囲には自然と起業を目指す傾向があり、私もその流れに身を置いていました。
同級生には孫泰蔵さん、隣のクラスには元ライブドア社長の堀江貴文さんもいて、高校や大学時代から「ビジネスを動かす」ことに向かう雰囲気が身近にあったのが、大きな影響を与えています。
── 学生時代の三木さんはあまり英語を喋れなかったそうですね。
はい、私は九州の田舎出身で、中学・高校では「文法中心」の英語教育しか受けず、スピーキングの経験はありませんでした。そんななかでソフトバンクに25歳で転職した際、「英語が話せないとまずい」と痛感したのをきっかけに、本格的に英語を学び始めたのです。
トライズには現在、サッカー日本代表の選手も多く来ていますが、彼らも中学・高校時代は英語よりサッカー中心で育っています。しかし、ヨーロッパでプレーするには英語で戦術を理解してコミュニケーションできないといけません。そのため、多くの選手が中学英語の復習から始めています。それでも、本気で必要だと意識して取り組めば、たった1年で商社マンレベルの英語力に到達するんです。
── 三木さんは学生時代を振り返ってみて、「こうしておけばよかった」と思うことはありますか。
正直なところ、もっと早く英語を始めておけばよかったなと思っています。大学時代に留学しておけばよかったですし、できることなら中学3年や高校1年くらいの時期に海外へ行けていたら理想的だったなと。というのも、英語の発音に関しては15〜16歳くらいまでなら、ネイティブにかなり近づける可能性が高くなるからです。
もちろん受験のタイミングを考慮すると現実的には難しい面もありますが、中3・高1の時期なら1〜2年間の留学も選択肢として考えることができます。実際に海外へ2年行けば、英語力は相当伸びるんですよ。
個人の目的意識を最大化する「コーチングモデル」
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──ソフトバンクで経験を積んだのち「トライズ」を立ち上げた経緯をお聞かせください。
ソフトバンクグループにいた当時、私はグループ内の子会社で社長になれたらと思っていました。そんななか、私が退職する直前の2006年頃は、会社が完全に通信会社になっていたんです。私は本部長の1人でしたが、本部長だけでも私のほかにも10人以上いて、社員はすでに2万人近くになっていました。
そうなると、社内で調整や運営をしていても、普通の本部長や部長と大差なくなってしまい、この環境で社長になるのは難しいと感じました。それなら、規模は小さくても自分で会社を作ったほうがいいと考え、起業を決意しました。
── 孫さんからはなにか声をかけられましたか?
孫社長に事業内容を聞かれ、「教育の事業です」と答えると、「教育で儲けた人はいないぞ」と言われましたが、「自分の夢だからやります」と伝えました。
こうして2006年に会社を創業し、最初の10年間はeラーニング事業に取り組みました。当初はブロードバンドの普及で、学びやすい環境を提供できると考えていましたが、実際に多くの会社では義務感で学習させられることが多く、これでは本当の学びにはならないと気づいたんです。
eラーニング自体は、「いつでもどこでも、安価に学べる」という非常に優れた仕組みです。しかし、日本では逆にその利点がうまく生かされないことが多くて、内発的な動機を持っている人にとっては、eラーニングは非常に有効ですが、疲れていると「今日はやめておこう」とどうしても先延ばししてしまいがちです。
日本は会社や親、学校などでも「人から言われてやる」ことが多いため、自分自身の内発的な動機があまり育っていません。そのような状況でeラーニングを導入しても、結局効果が出ないということがわかったんですね。
── eラーニングから教育内容を「英語」に変えたきっかけは何だったんですか?
「何のために学ぶのか」という目的意識こそが、学習の最大の原動力になります。eラーニング自体は優れた仕組みですが、目的意識が明確でないと、なかなか効果が出ません。
例えば、ITやパソコンスキルといった分野は、学ぶ意義や実践の場が明確なので効果が出やすく、eラーニングでも人気がありました。しかし、英語については単に教材をこなしても話せるようになるわけではありません。私自身、ソフトバンクに転職してから1年間必死に学んで英語を話せるようになった経験があるので、努力次第で英語は習得できると確信していました。
eラーニング教材の中で使えるものは活用しつつ、「なぜ英語を学ぶのか」「あなたに最適な教材はこれですよ」といったコーチングの部分が最も大事だということで、今の英語学習プログラム「TORAIZ」のモデルができあがったのです。
「自分に関係のあることだけに絞ること」の重要性
── 2015年から開始したTORAIZは、累計で1万6000人の受講者を突破したとのことですが、挫折率はどのくらいになりますか?
トライズでは「全額返金保証」を設けており、1か月目で合わなければ全額返金するというスタンスをとっていますが、その制度で辞める人は全体の6〜7%程度に収まっています。また現在の受講者は約1800人ですが、途中で挫折して辞める方は数十名ほどで、その理由も「仕事が極端に忙しくなった」「転勤になった」「体調不良で続けられなくなった」といったような、やむを得ない事情がほとんどです。学習そのものが嫌になって辞める人はほとんどいないんですよね。
それはなぜかと言うと、最初にコンサルタントが「あなたは何のために英語学習を始めたいんですか?」と徹底的に目標を掘り下げていき、そこを明確したうえで受講者に最適な教材を提案することができるからです。
eラーニングの大きな問題は、どうしても「標準的な教材を全員が同じように見る」仕組みになってしまう点です。そうすると、誰にとっても“まあまあ”であっても、「自分にぴったり」の教材にはなりません。
eラーニング事業をやっていて痛感したのは、大人は自分に関係のあることにしか、本当に興味を持って学べないということでした。そのため、英語の教材は世界中にあるものの中から、その人に最適なものを選ぶ必要があると考えたのです。
例えば、獣医の方なら、一般的な英語教材よりもその領域に直結したものを使った方が圧倒的に覚えやすいわけで、自分の仕事に関係する内容は驚くほどスムーズに頭に入ります。それは人間の脳の仕組みとして、そうなっているからです。
逆に言えば、関係のない情報はどんどん忘れていかないと、やることが多すぎて脳が処理しきれなくなります。今の時代、全てを覚えることは難しいからこそ、「自分に関係のあることだけに絞る」ことが、学びを継続し成果につなげる最も重要な要素なのです。
自分の気持ちを裏切らない選択が未来を作る

──三木さんどんな若手と一緒に働きたい、ともに成長したいと考えますか?
会社として目指している方向性が明確にあって、「一人ひとりに本当に合ったプログラムを提供し、人と組織の可能性を広げていきたい」という思いがあります。そこに共感してもらうことはもちろん大切ですが、同時に大事にしているのは、「自分自身の将来の夢を持っている人」に来てほしいということ。その夢は、必ずしも会社とまったく同じ方向でなくても構いません。
実際、社員の中には「将来はゲストハウスを開きたい」「子どもと一緒にアメリカへ移住したい」といった夢を持つ人もいます。そうした個人の夢の実現に向かう過程で、当社での仕事がその人にとって意義ある経験となり、さらに会社の目指す方向性とも一致していれば、双方にとってすごく幸せな関係が築けると思います。
だからこそ、自分の夢を持ち、英語を使って人と関わりながら誰かの力になりたいという思いを持つ方にぜひ来てほしいと考えています。
── そのためには、どのようなマインドセットが必要になりますか?
まずは「自分がどんなことをしているときに心地よく、夢中になれるのか」を徹底的に突き詰めることが大事になります。そういう意味では、先のことはまだ見えなくても、近くにチャンスがあれば迷わず踏み出してみることがポイントです。アルバイトをしてみたり海外に行ってみたりと、本当に何でもいいから行動してみることで、次の道が開けていくんですね。
私自身、英語が話せないまま海外に行った経験がありますが、実際にやってみなければ何が得られるかはわかりません。だからこそ、自分が「これが好きかもしれない」と思うものには、自分の気持ちや感覚を信じて積極的に挑戦していくことが大切なのではないでしょうか。
<構成/古田島大介 撮影/林 紘輝>
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Future Leaders Hub 編集部