「幹部に育成を任せてはいけない」27歳起業家が知った“スタートアップが陥りがちな成長の罠”
自身も学生起業の経験を持ち、数多くの大企業で経営参謀を務めてきた山崎伸治氏が、次世代を担うZ世代経営者の悩みに答え、ともに将来を切り開いていく「Special Mentor」。
今回の相談者は、株式会社Stok代表取締役・下川巧記氏。営業代行事業を展開し、グループ会社10社・社員1000人・年商100億円を60歳までに達成するという大きなビジョンを掲げる27歳の若手経営者。「幹部がリーダーを育てる仕組みを作ったが、うまくいかない」という組織づくりの悩みを入口に、山崎氏が語った言葉は、スタートアップが陥りがちな”成長の罠”への鋭い警告でした。

幹部に育成を任せてはいけない理由
山崎:現在、どのような組織体制で運営されていますか。
下川:元々は僕が全員に直接教えるような形でやっていました。今は社員が2社合わせて25〜26人、業務委託を含めると40人ほどになりまして、経営陣・幹部・リーダー・社員という階層を作り始めたところです。
幹部は3人いて、僕が幹部を育成し、その幹部がリーダーを育てるという形を取ろうとしているのですが、「育成者をどう育成するか」というところで今つまずいています。その悩みに対して、山崎さんはどう見ますか。
山崎:40〜50人規模であれば、経営者が直接見るべきだと思います。スタートアップの場合、トップと二番手の間には想像以上に大きな差があります。よく言われることですが、トップと二番手の差よりも、二番手と新卒の差のほうが近い、というくらい開きが出てしまうものなんです。
下川:なぜでしょうか。
山崎:人にはバイアスがあるからです。同じワードを使って説明しても、AさんとBさんとCさんでは理解の方向性が少しずつずれていく。直接見ている役員クラスでさえ、社長が思っていることと限りなく一致しているケースはほぼないというのが現実だと思っています。ましてや、その下にいるリーダーが新人に教えるとなると、哲学もワードの意味も、まったく違うものになってしまいます。
下川:具体的にはどうすればよいのでしょうか。
山崎:まずトークスクリプトを一文一句レベルで作り込むことです。人が介在しなくてもクオリティを担保できる部分は、できる限り仕組み化する。そのうえで、スクリプトの裏にある哲学や「ここで笑顔がほしい」というような細部は、社長が直接教える。その場面を動画に撮って、下の人たちに見せるという形にしたほうがいい。
営業こそがすべてである事業において、その肝の部分を社長以外が教えるというのは絶対にあかんと思っています。魂の乗り具合、ワードの使い方、その設定が全部変わってしまうからです。

AI時代の営業代行が目指すべき姿
山崎:下川さんはもともと人数を増やす方向で考えていたと聞きました。
下川:そうなんです。営業マンの質がなかなか上がらないので、量でカバーしようと考えていました。フルコミッションの形と、稼働日数で単価が保証される形の2つがあるのですが、後者の比率が高くなってきていて、人を増やすことで対応しようとしていたんです。山崎さんは、その考え方についてどう思いますか。
山崎:これからの時代、数にこだわる必要はないと僕は思っています。日本は2009年から人口減少社会に入っていて、これからさらに激しく減っていきます。能力の低い人を数集めようとすることに時間とお金をかけるのは間違いです。
それよりも、圧倒的に優秀な10人がAIを駆使してどれだけレバレッジをかけられるかを考えたほうがいい。100人の中くらいの営業マンよりも、10人の圧倒的な営業力を持つ集団のほうが強いと思っています。
下川:AIをどう組み合わせるイメージですか。
山崎:たとえば、営業マンがリアルタイムでオンラインにつながりながら、動画や資料を駆使してお客様に提案するモデルも考えられます。レベルの低い人が現場でうまくいかないよりも、圧倒的な営業力のある人が遠隔で対応したほうが成約につながる場合もある。
そういう意味で、人が少なくても手間をかけなくても回せるモデルを見つけることが、これからの勝ち筋だと思っています。

「ホールディングス展開」で絶対に避けるべきこと
山崎:下川さんは現在、ホールディングスのもとにグループ会社を増やしていく構想を持っています。
下川:はい。自分がいろいろなことに挑戦したいタイプであることと、社員の支出を抑えられる仕組みを作りたいこと、また幹部には株を渡して本気でやってほしいという思いがあって、グループ展開を考えています。この考えについて、山崎さんはどう思いますか。
山崎:正直に言うと、間違いだと思います。若い頃は無敵感があって、いろんな分野にチャレンジしたくなる気持ちはよく分かります。僕もそうでした。
ただ、長い目で見てきた中で、勝っている人というのは軸足が明確な人。ピボットという言葉がありますが、本来のピボットは軸足を固定したまま、もう一方の足を動かすことです。軸足まで一緒に動いてしまうと、これはトラベリング、つまり反則になってしまう。あちこち行き来している経営者で生き残っている人は、ほぼいません。
下川:では、ホールディングス展開を目指すうえでどういう考え方をすべきでしょうか。
山崎:自分たちの強みが営業にあるのであれば、営業力でレバレッジのかかる分野に絞ることが大切です。分野が一見バラバラに見えても、「自分たちは営業で勝つ」という軸が一本通っていればいい。
加えて、スタートアップはランチェスター戦略でしか大企業には勝てないと思っています。低コスト・低単価の領域で戦うと、大企業は同じサービスを無料で3年間提供して潰しにかかってくる。体力勝負では絶対に負けます。だからこそ、高価格帯、あるいはお客様に手間をかけて丁寧に向き合うところを狙い、スタートアップの小回りのよさで戦うべきです。

「お客様のありがとう」が先にある
山崎:本日のまとめとして言えることは、スタートアップは、できる限り高価格帯、あるいは手間をかけてお客様と向き合う領域に居続けたほうがいいということです。低コストでぐるぐる回すモデルは、大企業のほうが得意です。
そして、ピボットは構いませんが、軸足はずらさないこと。自分たちの強みや、お客様から支持されていることから離れずに、まずはその分野で圧倒的な一位になる。そこから広げていくほうが、成功に近いと思います。ぜひ頑張って天下をとってください。
下川:はい、ありがとうございます。

本記事でご紹介した対談の様子を、動画でもご覧いただけます。
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Future Leaders Hub 編集部 