Z世代の心を動かす「エモい」の正体。“心を動かすアイデア”はどう生まれるのか?【編集後記】
いま、駅前にあるカフェにいます。普通のチェーン店。でも、かなりの穴場です。
後ろのテーブルでは、男性ふたりが小声で商談中。店内には心地よいジャズが流れていて、話している内容は聞こえません。
カウンター隣の女性はワイヤレスイヤホンで、外の音をシャットアウト。タブレットで動画の編集をしています。
奥に座っているカップルは受験生でしょうか。英語のノートを広げ、会話もせずに一心不乱に問題を解いています。
そして私は、こうしてパソコンを広げて、このコラムを書いています。
なぜアイデアの総量は移動距離に比例するのか?
うるさすぎず、静かすぎず。混みすぎず、ガラガラすぎず。みんな温かいコーヒー片手に、それぞれの「いま」に集中。誰からも話しかけられることはありません。
顔を上げると、大きな窓には駅へ向かう人の流れ。思考が止まりそうなときは、ぼんやり眺めているだけで、再び脳が動き出します。
原稿のアイデアが浮かびやすい条件が、ここには揃っています。
「アイデアの総量は移動距離に比例する」という法則を知っていますか?
私はこの言葉を、かなり本気で信じています。場所を変えると、景色が変わる。景色が変わると、モノの見え方が変わる。すると、あら不思議。考え方まで勝手に動き出し、アイデアが生まれてきます。
感情の動きをマーケティングに生かす仕事
今回インタビューした今瀧健登さんは、そんな「移動」と「アイデア」をうまく仕事に活かしている社長さん。
先日はスイスの山の上で、大自然を感じながらテレワークをしてきたそうです。
「スイスの電車は、窓がすっごい大きいんですよ。めちゃくちゃ綺麗な湖を見ながら、コンセントをさして、仕事できて、移動できて。めちゃくちゃ快適でした!」
話を聞いているだけで、こちらまでワクワクします。
知らない場所に行ったり、初めての景色を見たり。そうした経験は、あとから思い出して「なんだか胸がキュッとする!」という感情につながります。Z世代なら「エモい!」でしょう。
今瀧さんの会社は、この「エモい」という感情の動きをマーケティングに生かす仕事をしています。さすが、働き方自体が“エモい”。
重要なのは「誰と、どこで、その時間を共有するか」

さらに面白いなと思ったのが「希望すれば会社メンバーが現地集合してもOK」という仕組みです。
なぜ、それが大事なのか。それは、“エモさ”が増幅するからです。今瀧さんはインタビューの中で、何度も「共感」という言葉を使っていました。
心を動かすアイデアや仕事は、ひとりではなかなか生まれにくいものです。同じ場所で、同じ景色を見て、同じ経験をして、「わかる、それ」「これ、ちょっとエモいよね」なんて言い合える仲間がいる。すると、ひとりの時とはちょっと違う感情の動きが起こります。
「スイスに行くとは伝えたけど、本当にこんなに集まると思わなかった!仲間がアドバイスをくれたおかげで、こんな仕事につながった!」
そんな共感体験は、間違いなく将来の“エモかったエピソード”になります。
私自身も大学生のときにカンボジアの小さな食堂で同級生とバッタリ会ったことがあります。「こんなことあるのか~」と感動しましたし、いま思い出しても“エモく”なります。
「何をするか」だけでなく、「誰と、どこで、その時間を共有するか」。これ、かなり重要です。
仲間と共有した体験は、かけがえのない「エモ」につながります。
もし就活や仕事のアイデアで悩んだら、家にこもっていないで、ぜひ場所を変えてみてください。そしてできれば、誰かと話をしてみてください。信頼できる人が一緒なら、スイスまで行けなくても、カフェでも十分です。
いつもと違う場所にくると、新しいアイデアが生まれる
ところで、私のいるカフェでは、気づくと後ろのテーブルが男女ふたり組に変わっていました。会社の先輩と後輩でしょうか。突然、女性が、鼻をすすりながら泣き始めました。
「お前はダメだって、人格を否定するような言われ方をして…」
声を震わせながら、もうひとりの男性に相談をしています。ぐすん、ぐすん…。説明すればするほど、大きくなる嗚咽。
ジロジロ見たり聞き耳を立てたりするのも悪いので、平静を装ってコラム原稿を進めようと思いますが、やはり気になります。先輩、どうか力になってあげて!
私のコラムは、そろそろ締めようと思います。カフェに座って書き始めたときには思いもよらなかった結末ですが。いつもと違う場所にくると、やっぱりいろいろなことが起きて、新しいアイデアが生まれます。エモい。
どうか、後ろのテーブルの女性も元気を取り戻して、いつか思い出したときに「ひとりじゃなかったな」と思える“とてもエモかった一日”になりますように。
そう願いながら、私はもう一口、すっかり冷めたコーヒーをすすりました。
<文/清水俊宏 撮影/山田耕司>
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