「似せることをやめる」からはじまった…新しいノンアルコールジンを提案する“小さな巨人”の挑戦
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酔わずして満たされる。そんな新しい楽しみ方が広がるなか、一本のプレミアムノンアルコールジンが生まれようとしています。
「飲む」という行為そのものの意味を問い直すこの挑戦について、仕掛け人である株式会社スモールジャイアンツスタジオの代表、中川裕章氏に話を伺いました。
彼が目指すのは単なる代替品ではない、飲む人も飲まない人も「積極的に選びたくなる一杯」。その情熱の源泉と「新しい乾杯」のかたちに迫ります。
「今日は飲まないので」と言える空気
最近、会食の席の風景が少し変わってきたと感じませんか。「とりあえずビールで」とみんなで同じものを頼むのではなく、最初の一杯からビール、ウーロン茶、ノンアルコールビールと、それぞれが好きなものを選ぶのが当たり前になってきました。
かつては「すみません、飲めないんです」と、どこか申し訳なさそうに断る人が多かったかもしれません。しかし、今は「今日は飲まないので」という一言で、誰もが自然に受け入れる空気ができています。
「これは『ソバーキュリアス』と呼ばれる考え方で、飲まないことを前向きに選ぶという価値観です。運転や翌日の予定といった理由だけでなく、自分の心と体のために、あえてアルコールから離れる。20代では男性の約半数、女性の約6割が日常的にアルコールを飲まないという調査結果もあります」(中川氏、以下同)
飲む人と飲まない人がはっきり分かれたのではなく、一人ひとりがその日の気分や体調で自由に選ぶ時代。だからこそ、飲まない選択をした人の前にある一杯の価値が、今、問われています。
代替品ではなく、「選ばれる一杯」をつくりたい
ノンアルコール飲料は、長い間「我慢」の象徴でした。「本当はビールが飲みたいけれど、仕方なく」という気持ちがいつもグラスの向こうにあったように思います。
「その前提が大きく変わりつつあります。ノンアルコール市場が拡大しているだけでなく、飲む理由が変化しているんです。実際、大手アルコールメーカーが発表したレポートによると、『何かの代わり』ではなく、『おいしいから』という理由で積極的に選ぶ人が約7割もいるとのこと。つくり手の意識も変わり、ノンアルコールビールの完成度は年々上がっていますし、バーでは本格的なモクテル(ノンアルコールカクテル)が注目を集めています」
この変化を最も強く感じているのは、飲まない来店客と日々向き合うプロフェッショナルたちです。高級飲食店ではワインペアリングと並んでノンアルコールのペアリングコースが組まれ、ホテルのラウンジではより上質な選択肢が求められています。
「素晴らしい料理の隣で、アルコールを飲まないお客様のグラスにだけ市販のジュースが注がれる。その落差にもどかしさを感じている料理人やバーテンダーは少なくありません。何を出すかが、そのお店の姿勢を映す鏡になっているんです。でも、彼らが自信を持って提供できるノンアルコールの選択肢、特に本物のジンのような複雑さや厚みを持つものは、まだほとんどありませんでした」
この空白に向けて、中川氏が率いる株式会社スモールジャイアンツスタジオが、プレミアムノンアルコールジンの開発プロジェクトを始動させました。
同社は「日本からひとつでも多くの“小さな巨人”を生み出す」をミッションに掲げ、全国の酒造やものづくり企業の情熱と技術を形にしてきた伴走者です。同社が展開するプレミアムアルコールブランド「CRAFT WONDER」では、ミズナラ樽で熟成させたビールや氷結製法を用いたビール、ライスウイスキーなど、常識を覆す独自の発想で数々の実績を積み重ねてきました。今回の挑戦も、その延長線上にあります。
「似せることをやめる」からはじめた

開発にあたり、中川氏が最初に決めたのは「つくらないもの」でした。
「市場にあるノンアルコール飲料の多くは、本物に『似せる』ことを目指しています。でも、似せることが目的である限り、その一杯は本物の影から抜け出せません。だから僕たちは、アルコールを抜いた飲み物ではなく、最初からこの姿になるように設計された、まったく新しい飲み物をつくろうと決めました」
その哲学を中川氏は「代替ではなく、発見」という言葉で表現します。
「飲めないから仕方なく選ぶ『代替品』ではなく、飲まない夜だからこそ、この一杯との出会いを楽しんでほしい。そんな『発見』のある体験をつくりたいんです」
素材にはジュニパーベリーやコリアンダーシードなど、伝統的なジンと同じボタニカルを厳選。しかし、目指すのはジンの模倣ではありません。歴史の中で磨かれてきた素材の力を借りて、それ自体が完成された一本を組み立てる。それがこのプロジェクトの核です。
ノンアルコールという先入観を裏切る「厚み」
試作品を味わうと、まずオリエンタルで幾重にも重なる香りに驚かされます。
「ジュニパーの凛とした香りをベースに、スパイスを思わせる爽やかな香りが立つように設計しています。口に含むと、ボタニカル由来の心地よい苦みが全体の輪郭をつくり、後からほのかな甘みが追いかけてくる。この苦みと甘みが喧嘩せず、一本の線としてつながるバランスを追求しました」
何より印象的なのは、ノンアルコールという先入観を裏切る、しっかりとした骨格を持つ「厚み」です。
「『ノンアルコールにしてはおいしい』という枕詞は、絶対にいらない。それが僕たちの基準でした。この厚みこそが、従来のノンアルコールスピリッツとの決定的な違いです」
この一杯を最も楽しめる飲み方として、中川氏はまずトニックウォーターで割るスタイルを勧めます。トニックの甘みと苦みが、ボタニカルの香りをくっきりと際立たせるのです。
「もうひとつ、ぜひ試してほしいのが『ソニック』です。トニックウォーターとソーダを1:1で合わせることで、甘さが抑えられて炭酸の切れが際立ちます。口の中をリセットしてくれるので、食事と一緒に楽しむのにぴったりなんですよ。どのグラスで、どの温度で、どう提供するか。そこまでが一つの体験だと考えています。アルコールの有無で、おもてなしの質が変わってはいけないんですから」
「食事の余白を埋める」という役割
この「厚み」は、料理と並んだ時に真価を発揮します。
「ワインが担ってきた『食事の余白を埋める』という役割を、アルコールなしで果たせるか。そこが重要です。香りが軽すぎれば料理に負けてしまうし、甘すぎれば皿の印象を壊してしまう。繊細な前菜から脂の乗ったメインまで、しっかりと寄り添える力強さが必要でした」
ボタニカルの豊かな香りは、和食の出汁にも、洋食のハーブにも寄り添うことができるため、ペアリングの可能性を大きく広げます。しかし、この一杯が輝く場所は、食卓だけではありません。
「仕事終わりの一杯、食前のアペリティフ、バーでの語らい、大切な人への贈り物。アルコールを飲む人には無数の豊かな場面が用意されているのに、飲まない人にはその選択肢があまりに少なかった。僕たちは、その差を埋めたいんです。ホテルのラウンジやリゾートのプールサイド、そんな景色にも、この一本はきっと似合うはずです」
さらに、この飲み物は「静けさ」という価値ももたらすと中川氏は考えています。
「アルコールが場を加速させるのとは違う、穏やかな時間が流れる。会話の間が少し長くなって、料理の余韻に耳を澄ませる余裕が生まれる。そんな、アルコールを入れないからこそ生まれる静かで豊かな時間も、この一杯が提供する価値の一部だと思っています」
「乾杯の輪」から誰も外れない風景をつくる

このプロジェクトが生まれたきっかけは、中川氏自身の記憶にありました。
「お祝いの席で、みんながグラスを合わせる瞬間、そっと手元のグラスをずらす人がいる光景を何度も見てきました。妊娠中の友人、体調を気遣う親族、運転を控えた仕事仲間。理由は様々ですが、その一瞬、彼らが輪から少しだけ外れているように見えたんです」
その小さな引っかかりが、すべての始まりでした。
「『乾杯』という行為は、本来もっと開かれたものであるべきじゃないか、と。飲まないと決めただけで、その場を心から楽しめないなんて、寂しいですよね。飲まない人のために『何か』を用意するのではなく、飲む人と同じ熱量の一杯を、同じテーブルに並べたい。乾杯の輪から誰も外れなくていい状態をつくること。それが僕たちの目指す風景の変化です」
まだ名前も発売時期も明かされていない、このプレミアムノンアルコールジン。日本のつくり手が磨いてきた技術と、中川氏が現場で覚えた小さな違和感。その二つが交わる場所に、新しい乾杯のかたちが生まれようとしています。
この一本が、日本の乾杯の風景をどのように変えていくのか。その答えが明らかになる日はそう遠くないはずです。
<提供/株式会社スモールジャイアンツスタジオ>
Future Leaders Hub 編集部