貧困支援は「福祉」ではなく、「投資」になる…逆境を“豊かな未来”につなげる思考法【編集後記】
お笑いコンビ「パックンマックン」のパックンを知っていますか?
ニュース番組などにもよく出演しているので、コメンテーターのパトリック・ハーランさん、と言った方がわかりやすいかもしれません。
アメリカの名門ハーバード大学を卒業。池上彰さんの推薦で東京工業大学の非常勤講師も務めています。英語も日本語も堪能で、政治や経済に関する的確なコメントには定評があり、本も多数執筆――。
そんな経歴を聞くと、「エリート」「順風満帆」といったイメージを持つかもしれません。
でも実は、幼少時代は国から食料支援を受けるような貧困家庭に育ちました。10歳から高校卒業までは、新聞配達のアルバイトを一日も休まずに続けて生活費の一部を稼ぐ日々。
努力と周囲の助けによって今の地位を築いた苦労人です。
「逆境を力に変える」を体現する生き方
そんなパックンと一緒に日本の子どもの貧困の現状を取材して『逆境力』(SB新書)という本を出版したことがあります。
本の中では、パックン自身の貧困経験もつづられています。毎日同じ服を着ていた貧乏育ちからハーバード大学に進学。大学では石鹸さえ満足に買えない寮生活を送りながらも、奨学金を受けて通い続けて卒業しました。
日本に来てからも、食費を切り詰めるためにパン屋でパンの耳をもらうような生活をしていましたが、それを乗り越え、いまの活躍につながっています。
「逆境を力に変える」とは、まさにパックンの人生を表す言葉でしょう。
考え方や工夫によって人生を切り拓く
この本のタイトルは『逆境力』ですが、最初は『貧乏力』にしようというアイデアもありました。
パックンはかつての貧乏生活によって、どんな小さな出来事にも喜びを見出す感性や、創意工夫、忍耐強さなど、今につながる「力」をつけました。まさに「貧乏力」と呼べるような力です。
でも、この本が書店に並んだ時のことを考えました。「みなさん、貧乏力をつけましょう」「貧乏力は素晴らしい」というメッセージに受け取られ、貧乏を肯定しているよう見えてしまうのではないか。
伝えたい内容は、貧しい境遇であっても、パックンのように考え方や工夫によって切り拓くことができるということ。決して、「貧乏でもいい」ということではありません。
貧乏や相対的貧困は、社会として解決すべき課題です。ただ、いま逆境に置かれていたとしても、その中で得られる力もある。そんな「逆境力」の存在を読者に届けよう。そうして本が完成しました。
経験を大きな社会課題と捉えて起業

パックンと『逆境力』を出版したのは5年前のことですが、今回、村上健太さんにインタビューをして、「逆境力」という言葉を強く思い出しました。
村上さんは東京大学の在学中に家庭環境が苦しくなって学費が払えなくなり、「このままでは退学になります」という通知を受ける逆境に直面しました。
就職の内定までもらっている状態なのに奨学金などすべて断られ、このままでは卒業ができないかもしれないという状況でした。
お金がないので外出はあまりできず、家で本をたくさん読む日々を過ごしたそうです。
そして、自身の「学生だとお金が借りにくい」という経験を大きな社会課題と捉え、「金融×教育」の分野で起業を決意。株式会社EduCare(エデュケア)を創業しました。
2022年に創業したばかりですが、「入口(教育資金)」から「出口(キャリア形成)」までを支援する「学ぶ人のための新しい金融プラットフォーム」として大きな注目を集めています。
まさに、自分自身が直面した逆境を力に変えた「逆境力」と言えるでしょう。
貧困支援は「ローリスク・ハイリターンの投資」
『逆境力』の取材時にパックンが言っていた、印象に残っている言葉があります。
「貧困支援というと『福祉』と捉えられがちですが、それはナンセンスですよね。経済的に苦しい家庭の子どもたちがきちんと教育を受け、将来は納税者になると考えれば、『ローリスク・ハイリターンの投資』ですよ」
村上さんの「逆境力」によって誕生したサービスや考え方は、きっと次の「逆境力」を生み出していくはずです。
ぜひ動画でも「逆境力」に触れてみてください。逆境は、ただ乗り越えるものではなく、未来をつくる力に変えられます。次は、あなたの番かもしれません。
<文/清水俊宏 撮影/山川修一>
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