「給与ゼロ」でも諦めない──23歳で4000万円の負債を背負った鰻店経営者が描く“終身雇用”の将来設計
老舗うなぎ店の経営を23歳で引き継ぎ、4000万円の負債をわずか5年で返済。その後、飲食に福祉と新たな事業をと次々と展開させる株式会社麻布しき代表、齊藤桂太氏。 順風満帆に見えるそのキャリアの裏には、想像を絶するほどの修羅場がありました。
給与ゼロ——23歳が選んだ条件
齊藤氏が家業を継ぐと決めたのは、中学に入った頃のことです。
「あんまり疑問がなかったんですよね。むしろ高校は行かなくていいよって言っていたくらいで」
両親に説得されて全日制高校を卒業した後は、すぐにふぐ料理店への住み込み修行へ。18歳から23歳までの5年間で最年少の副調理師となり、その後は麻布しきでうなぎの修行を続けました。
しかし、家業に戻った齊藤氏を待ち受けていたのは厳しい現実でした。「ちょっとお金貸して」——5万円、3万円、10万円と、父親から断続的な借金の依頼が続きました。当時の齊藤氏の月給は、250時間働いて総支給15万円。そこから父親へ貸し続けるのは、容易なことではありませんでした。
痺れを切らして確定申告書を見せてもらうと、数字は明らかでした。
「もうこれ潰れるじゃん、どうしようって」
父親と話し合い、齊藤氏が出した条件は苛烈なものでした。既存スタッフの当時の体制をゼロから組み直す決断をし、父と二人だけで店を回す。そして自分の給与はゼロにして、人件費をすべて返済へ回す。朝は別の仕事で自らの生活費を稼ぎながら、夜は家業を立て直す日々が始まりました。
身内への借金については、自ら足を運んで頭を下げました。
「このお金は私が引き継いで返してきますんで、どうかお時間をもらえませんか」
売上3000万円に対して負債4,000万円。それでも5年間で完済にこぎ着けます。その後、弟がふぐ屋での修行を終えて帰ってくると、店を任せ、自分は次のステージへと歩み出しました。

「飲食だけでは守れない」という確信
33歳で2店舗目を開業し、翌年に法人化。35歳で代表取締役に就任。その矢先に訪れたのがコロナ禍でした。
「法人化した翌年にロックダウンですよ。本当に地獄でした」
店舗を営業できない状況の中で、社員の雇用を守れないかもしれないという恐怖が齊藤氏を動かします。緊急融資で得た資金を、飲食ではなく福祉事業へと全額投入する決断をしました。
きっかけは、テレビのニュースでした。みずほ銀行やトヨタが終身雇用を見直すと報じた映像を見て、逆転の発想が生まれます。
「ヒエラルキーが高いとはいえない業界で『終身雇用します』と言えたら強いと思ったんです」
齊藤氏が描く青写真の核心は、飲食と福祉をつなぐ独創的な仕組みです。
長年勤めた社員が積み立てた厚生年金を使って、自社が運営する老人ホームに入居できる—ような制度を構想しています。48歳で入社して15年働いた社員が63歳になったとき、「あと5年頑張れば老人ホームに入れる」という動機を持てる。若いうちから20年働いて独立した社員には、その年数分の恩返しができる。
「なんかそういう志持って飲食やってるやついるんだ、『面白い!』ぐらいでいいと思ってて」
飛び込んだ福祉業界での知識はゼロでした。それでも茨城県牛久市の区役所へ毎日顔を出し、お弁当を届け、「明日持ってくるものはありますか」と宿題を求め続けました。半年かかると言われた申請が3か月で通ったのは、地道な信頼の積み重ねがあったからです。
現在、グループ全体では利用者・スタッフを合わせて約100人規模。福祉事業の社長にはキーエンス出身者をヘッドハンティングし、齊藤氏自身は「物言う株主」として次の展開を見据えています。

「逃げられない場所に自分を置いた人間の強さ」を求めて
現在、飲食部門では20代前半の若手店長や料理長が店舗運営を担っています。彼らの共通点は、スポーツ経験者であること。
齊藤氏が重視するのは、学歴や偏差値ではありません。
チームをまとめる力と、誰も助けてくれない一人の勝負——その両方を経験した人間。つまり、「逃げられない環境に、自分を置いていた経験」を持つ人材を重視します。
経営者として最も大切なものを問われると、齊藤氏はこう語りました。
「諦めるという概念がないんです。事業として撤退することはあります。でも、自分が描いた未来を諦めることはない」」
23歳で4000万円の負債を抱え、給与ゼロの状態から再建に挑んだ経験。そして、コロナ禍を経て、飲食と福祉をつなぐ新しい挑戦へ。
修羅場が育てた「諦めない心」で、齊藤氏は今も、“社員の人生ごと支える会社”という理想を掲げ次の事業を動かし続けています。
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Future Leaders Hub 編集部