「17時25分に自分が帰る」教育業界では異例の“働き方改革”を実践したワケ

学校に通えない子どもたちに、居場所と未来を届けたい。
そんな思いから生まれた株式会社成美学園は売上26億円、従業員392人を擁するグループへと成長しました。代表を務める酒井一光氏は、20歳で父とともに会社を立ち上げ、音楽講師からわずか5年で社長の座に就いた異色の経歴を持ちます。
「売上ゼロ、社員ゼロのときから一緒にやってきた。それが自分の一番の財産だと思っています」
そう振り返る酒井氏に教育事業にかける思いを聞きました。
お金じゃ買えないやりがいを手に入れた
「学校に通えない子たちを無理に引き出すのではなく、通いたくなる学校を作ることが大切だと思っています」
成美学園の校訓は「認めて、引き出して、応援する」。生徒一人ひとりのいいところを伸ばし、悪いところは大きくならないように導きます。
「具体的には、3か月に一度の行事を通じて、小さな成功体験を積み重ねるカリキュラムを組んでいます。入学当初は一言も話せなかった生徒が、卒業式の舞台で堂々と演奏する姿を見ると、お金じゃ買えないやりがいを手に入れたと思うんです。10人は自分一人でも救えるかもしれない。でも、2,000人を救うには、人の力が絶対に必要なんです」
人を介して仕事をすること、それ自体が酒井氏にとっての喜びになっていたという。
酒井氏の原点は、野球にあります。千葉の高校で野球に打ち込んでいた頃、「人を応援すると、自分の結果もよくなる」という感覚を体感した。その発見が、現在の経営スタイルへとつながっているとのこと。
「20歳でバンド活動を始め、22歳でデビュー。しかし、24歳で事務所をクビになり、転機が訪れました。父から『不登校の子どもたちのための学校を一緒に作らないか』と声をかけられ、20歳で共に成美学園を立ち上げました。共同創業者のような形でやらせていただいた。5年後に『お前が社長だ』と言われたとき、プレッシャーはなかった。もう十分、苦労も課題も一緒に乗り越えてきましたから」
25歳から30歳の5年間はチラシ制作、写真、動画編集といったクリエイティブに関するスキルをすべて独学で習得。先生たちの仕事を外部に発信し、信頼関係を築くためでした。

自ら「17時25分退社」を実践し、職場環境を改善
残業月平均1時間、フレックス制度の導入。教育業界では異例ともいえるこの働き方は、どこから生まれたのでしょうか。
「僕は仕事が大好きで、いつまでもやり続けてしまう人間なんです。でも、社員は違う。そう気づいたとき、バンド活動を再開しました。社長としてではなく、一個人として、仕事とプライベートの充実を体現したかったからです。今は17時25分には自分が帰る。そこから社員も、どうすれば同じように働けるかを幹部と一緒に考えてもらいました」
号令ではなく、自らが先頭に立って示す。そのスタイルが組織全体に染み込み、今年の新卒採用はすでに16人が内定。2027年の内々定者もすでに12人にのぼる。
現在、成美学園グループは関東エリアを中心に34キャンパスを展開している。酒井氏が掲げる次の目標は、10年で全国に生徒1万人を迎えること。そこに到達すれば、売上は100億円規模に達する計算だ。しかし、それはあくまでも手段に過ぎない。
「100億円になったら、次は150億円を目指せということになりますよね。数字を追いかけていると、それはイタチごっこになってしまう。だからこそ、目的をきちんと設定することが大事だと思っています」
今後は中学生の不登校生徒を対象とした無料オンラインフリースクールも立ち上げる予定だという。全国に22万人いるとされる不登校の中学生が、国語・数学・理科・社会を自宅で無料で学べる環境を整える。
「家にいながらも学べる状態を作って、小さな成功体験を積めるようにしたい」
その言葉は、学校の教室で語るものと、まったく同じトーンだった。
大人が夢を持てば、子どもも夢を持てる

酒井氏は社会に出ることへの不安を抱える若い世代に向けて「決断に自信を持つことの重要性」を強調する。
「どれだけ悩んで決めても、最終的に決断したのは自分自身です。だから、その選択に自信を持ってほしい。不安なまま入るよりも、ここでこういうことができる、こういうことをやるんだ、とポジティブに自分に言い聞かせることがとても大事だと思います」
そして、自社の若手の採用に際しては、素直さと誠実さを何より重んじるとのこと。
「スキルは後から伸ばせる。でも、人としての礼儀や約束を守るということは、最初から大切にしてほしいんです。そして、夢をもって仕事に取り組んでほしいです。大人が夢を持てば、子どもも夢を持てる。そのサイクルを、自分の手で作っていきたいと考えています」
あなたにおすすめの記事
「若いときに過酷な会社でがっつり仕事をしたい」労務管理のプロが語る“自分の限界”を知ることの重要性
「年収を上げたい」から起業へ…社会保険労務士と行政書士で成功した兄弟が振り返る“20代の情熱”
「将来的には社員全員を社長にしたい」教育一家の血を引く起業家が目指す“新時代の働き方”
コロナ禍で予約がゼロに…旅行業ひと筋だった61歳が「水素発電」で世界を変えようと決めた理由
「敷かれたレールの上を走るのか」葛藤の末に家業を継いだ“118年企業の後継者”の覚悟
「変化を恐れず挑戦できる人材が勝つ社会を創る」元研究者社長が掲げる“不確実な時代を生き抜くキャリア戦略”
「何でも動いてみないとわからん」繊維商社からクリエイティブへ…挑戦の連続が生んだ“異色のキャリア”
「人を大切に、夢をカタチに」コーチングと児童福祉、2つの事業をつなぐ経営者の哲学
「生意気だ」と言われた“学歴ゼロ”の若者が21歳で独立。創業から会社売却、上場に再挑戦するまで
Future Leaders Hub 編集部