値引き交渉に悩む起業家に“経営のプロ”が伝えた「二度断って1%刻め」価格交渉の本質
自身も学生起業の経験を持ち、数多くの大企業で経営参謀を務めてきた株式会社サクラサク代表取締役・山崎伸治氏が、次世代を担うZ世代経営者の悩みに答え、ともに将来を切り開いていく「Special Mentor」。
今回の相談者は、愛知県名古屋市を拠点に公式LINEのプロモーション事業を手がける株式会社Anywel代表取締役・浦野歓太氏。創業8年、スタッフ11人を抱えながら一貫して紹介営業のみで成長してきた同社が直面する「紹介依存からの脱却」「値引き交渉への対処」「事業モデルの進化」という3つの悩みに、山崎氏が鋭く切り込みました。

広告へ逃げる前に紹介を仕組み化
山崎: 浦野さんは創業以来8年間、ずっと紹介営業だけでやってこられて、スタッフも全員紹介で採用しているそうですね。今、何か課題に感じていることはありますか?
浦野: はい。SNSやメディアへの露出もほとんどしてこなかったので、今の時代にちょっと逆行しているような形ですが、そこからどう脱却できるのか、アドバイスをいただければと思います。
山崎: 意外な角度のご質問ですね。今の若い経営者の方々は皆さん自己表現が上手で、SNSに積極的に出られる方が多い。実力がないのに露出だけが多いというケースも正直あります。その意味では、逆行されていて面白い。 紹介というのは、「この社長はすごい人だ、信頼できる人だ」と思ってもらっていなければ絶対に生まれないものです。紹介で成り立ってきたこと自体が、ご自身への信頼の証です。そこにマイナスを感じる必要は一切ありません。
浦野: ただ、件数の平均値が出せないという不安があります。売上が出れば嬉しいし、出なければ悲しいという感情の波が、人数が増えてきた今、少し気になるようになってきました。
山崎: それは紹介という営業手法の問題ではなく、紹介を「属人的な社長個人への依存」のままにしているところに問題があるのではないでしょうか。 紹介の仕組みには3つの層があると私は考えています。
1つ目は、社長ご自身の紹介案件をシステマチックに回すこと。ご自身がかける時間を極小化しながら最大の効果を取るにはどうするかを考えることが最初のステップです。 2つ目は、スタッフの方々が紹介を取れるやり方をしっかりマニュアル化し、仕組みにすること。3つ目は、一度ご利用いただいたお客様が別のお客様を連れてきてくださるような構造をつくること。
インセンティブの設計でも、満足の声を拾い上げて広げる仕掛けでも、ここは構造的に捉えれば必ず仕組み化できます。 紹介案件でまだ伸ばせる余地がある間に広告を考えるのは無意味です。まずは徹底して紹介案件の拡大化に進んでほしいと思います。

価格は下げるな、価値を高めよ
山崎: 営業の現場において、価格設定や交渉で苦労されている部分はありますか?
浦野: 実は値引き交渉に悩んでいます。IT企業は価格競争に巻き込まれやすく、営業が得意なスタッフならいいのですが、苦手なスタッフはじわじわ利益を削ってしまう。うちはオーダーメイド構築で全顧客の価格が異なるので、「これを削ったら安くなる?」という相談がされやすい構造になっています。
山崎: 少し整理しましょう。「紹介だから値引き交渉になりやすい」というのは、実はイコールではありません。値引き交渉になりがちなのは、値引きをやりすぎている会社なんです。 キャンペーンを打ったり値引きをちらつかせたりしていると、「どうせ下がる」というところからお客様との交渉がスタートします。これは心理学の問題。
私が勧めるのはエブリデイロープライス型の戦略です。「うちはもうギリギリのラインで価格を決めているので、これ以上下げられません」を徹底する。そして、この価格を取れるだけのサービス内容やアウトプットになっているかどうかを問い直す。値段を下げることを考えるのではなく、この値段に見合う価値を高めることに集中するべきです。
浦野: 思い当たるところがあります。自分が甘くなっているなと感じる部分があって、「これぐらいなら」という線引きをしてしまっています。
山崎: それがまさに問題の根本です。もし本当にどうしても価格を下げなければならない場面が来たとしたら、「刻む」ことです。 よくある失敗は、交渉されたらすぐに「2割引」「3割引」と言ってしまうこと。私がもし相手側の立場だったら、「3割引けるなら半額まで行けるな」と思って半額を要求します。
正しいやり方は、二度断った後、「本当に苦しいのですが、1%だけなら」と刻んでいくことです。相手は「本当に引けないんだな」と感じます。そこから「では2%で」と決めるのが、価格交渉の極意です。
浦野: なるほど。確かに刻んだことはありませんでした。
山崎: もう一つ大切なのが、社員への教育です。営業スタッフが値下げに流れやすいのは、彼らが悪いわけではありません。自社の価格の成り立ちを完全に理解していないこと、そして自社のサービスに完璧な自信を持てていないことが原因です。
価格の根拠をしっかり説明すること。他社と同じ内容であっても、サービスの質やお客様とのコミュニケーション頻度、提案の深さなど、何かの違いを見つけて「ここが違う」と社員に理解させること。この2つができると、価格交渉の頻度はぐっと下がります。

スペックではなく、「達成したい未来」を売る
山崎: クライアントへの提案時、自分たちの立ち位置をどのように伝えていますか?
浦野: 実は最初の提案の段階では、「僕らはLINEのプロフェッショナルで、皆さんのビジネスのパートナーです」という話をしていたんです。でも今日の話を聞いて、売り方がそれとズレていたなと気づきました。融通が利くとか若さとかを、逃げの方向で使ってしまっていたかもしれない。
山崎: クライアントさんとの関係って、同じ目標に向かって走っていく同志だと私は思っています。業者ではないということを、もっとはっきり伝えた方がいいと思います。 「私たちは御社の成功のために懸命に努力するパートナーです。だからこそ、御社のためにならないことはノーと言います」という姿勢が大事です。
そして、オーダーメイドの提案の組み立て方も見直す余地があります。今は「これとこれをつけます」というスペックの話になりがちですが、本来クライアントが求めているのは、達成したい未来です。「社長、達成したいことはそういう機能ではなくて、こういう未来ですよね。だとしたらここをケチってはダメです」と逆に説得してあげることが、本来あるべきプロフェッショナルの姿ではないでしょうか。
浦野: 刺さります。パートナーとして寄り添うことはできているつもりでいたのに、実際の売り方が伴っていなかった。今日名古屋に帰ったらすぐ社内会議をします。

SaaS会社ではなくコンサル会社を目指す
山崎: 浦野さんが描いている、今後の事業プランや展望について教えてください。
浦野: 今後の事業プランについても相談させてください。LINEを活用したサービスは普及してきていますが、業種特化が弱いと感じています。うちみたいに400社以上のLINEを構築してきた会社だからこそ反映できるものを、SaaSのようなツールとして展開できないかと考えているのですが。
山崎: 大きな流れで言うと、SaaSはすでに厳しい状況にあります。LステップのようなサービスもAIでどんどん代替されていて、クライアント側が「自分たちで作れるのでは」という発想になりやすい。SaaSとして「どうぞお使いください」というモデルに未来はないと私は思っています。 ただ、おっしゃった方向性には可能性があります。
一つは、より深く業界に特化すること。特定の業界の「かゆいところに手が届く」レベルまで仕上げて、お客様が自分では作れないクオリティを実現する。複数の業種を横断して得たデータや知見があるからこそできることで、これはAIには難しい領域です。 もう一つは、クライアントの利便性を徹底的に高めること。
忙しい経営者は「なんかよくわからないけど御社が一番使いやすい」という感覚を非常に重視します。だとすると、SaaSベースではなく、担当者をつけたヒューマンケアの世界になってくる。
浦野: つまり、SaaS会社になるのではなく、コンサルティング会社として自分たちのLINE構築の技術をコンサルをやりやすくするための武器として持つ、ということでしょうか。
山崎: まさにそうです。そこに進めば、今悩まれていることが全て解決する方向に向かうと思います。オーダーメイドで一社一社に深く入り込んでいることを武器にして、付加価値として前面に出す。「私たちはそれだけ入り込んでいます」という意識づけを、社内にも対外的にも明確にしていくことが大切です。今日はどうもありがとうございました。
浦野:ありがとうございました。

本記事でご紹介した対談の様子を、動画でもご覧いただけます。
記事だけでは伝えきれない「現場の熱量」を感じてみてください!
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Future Leaders Hub 編集部 