ホーム>Special Mentor>「月曜日の憂鬱をなくしたい」急成長インフルエンサー事務所の代表が明かす“起業の原点”
2026.06.29 16:00

「月曜日の憂鬱をなくしたい」急成長インフルエンサー事務所の代表が明かす“起業の原点”


自身も学生起業の経験を持ち、数多くの大企業で経営参謀を務めてきた株式会社サクラサク代表取締役の山崎伸治氏が、次世代を担うZ世代経営者の悩みに答え、ともに将来を切り開いていく「SpecialMentor」。

今回の相談者は、インフルエンサーのキャスティングとマネジメントを手がける急成長中の事務所、株式会社Suuの代表取締役・安藤鈴菜氏。事務所を運営するなかで直面した「インフルエンサーへの提供価値」と「独自の世界観と新たな挑戦の両立」という二つのリアルな悩みに、山崎氏が自身の経験を交えながら真正面から切り込みました。

提供価値を徹底的に可視化する

山崎: 安藤さんはインフルエンサー事務所を立ち上げて、いま非常に勢いのある領域に挑戦されていますが、経営の手探り感が続くなかで、具体的にどのような部分に一番高い壁を感じていますか?

安藤: 従来のタレント事務所とは違って、インフルエンサーの方はすでに数万人規模のフォロワーを自力で抱えた状態で所属するケースが少なくありません。そのため、「自分の力でファンを増やしてきたのに、事務所に所属するメリットは何か」「マージンに見合う価値を本当に提供してくれるのか」というシビアな視線を向けられやすいという構造的な課題に直面しています。「事務所として何をしてくれるのか」という問いに、経営者としてどう答えるべきか悩んでいます。

山崎: なるほど。それはインフルエンサービジネスにおける本質的なテーマですね。かつて同様の課題を抱えて成長し、最終的にバイアウト(売却)へ至った先行企業のケースなどを見ても、まったく同じ壁にぶつかっています。ここで重要なのは、事務所が提供している価値の「見える化」です。事務所がインフルエンサーに対して何を提供できるのか、その内容をまずは徹底的にクリアにすること。そして、「これって普通に外部のプロに発注して提供してもらうと、どれぐらいの価値や費用があることなんだろう」ということを、すべて裏側で計算しておく必要があります。

安藤: 提供しているサポート内容を言語化するだけでなく、金銭的な価値やコストとしても算出しておくということでしょうか。

山崎: そういうことです。例えば、営業代行、法的リスクの管理、確定申告のアシスト、撮影スタジオの提供、あるいはタイアップ案件の獲得交渉。これらを個人で外注したら月においくらかかるか。「1年間サポートしてあげたら、これだけの有形無形の価値を出してあげているのだから、事務所の取り分としてこれぐらいもらうのは当然だよね」という明確なロジック、つまり価格感度が構築できるようになります。これがないと、経営者側のマインドとしても「もらいすぎているのではないか」と弱気になってしまいますからね。

安藤: 確かに、付加価値を自分たちでも曖昧にしていた部分があったかもしれません。実務の明確な数字としての裏付けが必要なんですね。

山崎: さらに言えば、事務作業の代行だけでなく「プロデュースによる実績」を体感させることが最大の価値になります。インフルエンサー自身が「自分一人では絶対に接点を持てなかった大手クライアントと仕事ができた」「一人では絶対に取れなかった新しいファン層が、事務所の企画によって広がった」と実感できるようになれば、事務所の存在意義を疑う声は自然と消えていきます。提供価値の「見える化」と「ファン層の拡大という実績」、この二つが競争力を支える強力な柱になります。

「世界観」を維持しながら新しい挑戦を広げる

山崎: 提供価値の明確化を進める一方で、実際に所属しているインフルエンサーの方々の活動をコントロールしたり、方向性を導いたりする中での悩みはありますか?

安藤: すでに確立された独自の世界観でファンを魅了しているインフルエンサーに対し、事務所側から「新しい挑戦」を促す際のバランスにとても悩んでいます。本人の世界観を守ってあげることも大切ですし、でも事務所としてはさらなる成長のために活動の幅を拡大してほしい。クリエイターの個性を尊重したいからこそ、どこまで踏み込んで新しい提案をしていいのか、その境界線が見えなくなってしまいます。

山崎: クリエイタービジネスにおいて、その「守りと攻め」のバランスは非常にデリケートな問題ですね。私はこれを説明するとき、よくバスケットボールの「ピボット」という動きを比喩に使います。ピボットとは、軸足をしっかりと地面につけて固定したまま、もう片方の足を大きく移動させて次の展開を狙う動きのことです。もし、両方の足を同時に動かして軸足まで移動させてしまうと、「トラベリング」という反則になってすべてが台無しになりますよね。

安藤: ピボット、ですか。インフルエンサーにとっての軸足が、本人の「世界観」ということでしょうか。

山崎: まさにその通りです。ご自身が持っている、ここは絶対に譲れないという「世界観」や「コアな魅力」は軸足としてしっかりと固定して守り抜く。でも、もう片方の足は、時流に合わせて、あるいは事務所や周囲の先輩から言われたアドバイスも参考にしながら、位置づけを変えて新しい領域へ一歩を踏み出す。このピボットの動きを繰り返していかれると、ファンを裏切ることなく、時代に取り残されることもなく成功に近づくことができます。

安藤: 軸足は動かさず、もう片方の足で新しい可能性を探る。そう考えると、世界観の維持と挑戦は矛盾しないのですね。

山崎: 矛盾しません。例えば、日本を代表するアーティストの矢沢永吉氏が良い例です。彼は「ロック」という巨大で絶対にぶれない軸足を持っています。しかし、その枠の内側では、海外の有名アーティストとのコラボレーションをいち早く行ったり、日本の音楽業界で先駆けてデジタルチケットのシステムを導入したりと、常に先進的で新しいことに挑戦し続けています。軸がブレないからこそ、枠の中での挑戦が魅力的に映り、長年にわたって熱狂的な支持を集め続けているわけです。

安藤: 矢沢永吉さんの例はすごくわかりやすいです。枠があるからこそ、その中での新しい挑戦が引き立つんですね。

山崎: その上で、経営者である安藤さんが見極めるべきは、そのインフルエンサーが「枠をしっかり守りながらその中でピボットするタイプ」なのか、それとも「まだ自分を確立する途中で、とにかくいろんなことを試して枠自体を探しているタイプ」なのかという個性の違いです。タイプによってアプローチは変えるべきですが、どちらのタイプであれ、「今のままでいい、新しいことをやらない」という選択肢は、この変化の激しい時代においてあり得ないと断言できます。

上から目線で管理するような「マネジメント」はいらない

山崎: 所属クリエイターに新しい挑戦を促し、成長させていく上で、安藤さんは事務所の代表として彼らとどのような距離感でコミュニケーションを取りたいと考えていますか?

安藤: 事務所の利益や成長を考えると、時には強く方向性を提示したり、ある種の「管理」や「コントロール」が必要なのではないかとも感じます。ですが、あまりに縛り付けると彼らのモチベーションを削いでしまうのではないかという懸念もあり、その適切な距離感が掴めずにいます。

山崎: 結論から言うと、インフルエンサーに対して上から目線で管理するような「マネジメント」という発想は、今の時代には必要ありません。お互いに机を挟んで向かい合うような関係性ではなく、私は「伴走者」という視点を持つべきだと考えています。

安藤: マネジメントではなく、伴走者。具体的にはどのように関係性を変えていけばよいのでしょうか。

山崎: 向かい合って「あれをやりなさい、これをやりなさい」と管理するのではなく、インフルエンサーの横に並んで、同じ方向を見るんです。本人が抱いている将来の夢や、人生のゴール、本当に好きなことや得意なことを徹底的にヒアリングして深く理解する。その上で、「あなたの目指すゴールがそこにあるなら、いまはこっちの道を選んで走った方が近道なんじゃないか」ということを、同じ目線で一緒に考えてあげる存在になるということです。

安藤: 管理者として指示を出すのではなく、共通のゴールに向かって隣を走るパートナーになる、ということですね。

山崎: そうです。契約書の上ではマネジメント会社と所属インフルエンサーという関係だったとしても、精神的な距離感はもっと近づけるべきです。向かい合うのではなく、共通の未来に向かって肩を並べて一緒に走ること。これこそが、移り気の激しいクリエイターたちと、長きにわたって強固な信頼関係を築き上げるための最大のコツであり、これからの時代の事務所に求められる在り方です。

理想を徹底的に追求する「ドリーマー」でいい

山崎: 所属するメンバーたちの伴走者として彼らを引っ張っていく存在になるわけですが、そもそも安藤さんご自身の「人生のゴール」や、この会社を立ち上げた起業の原点はどこにあるのですか?

安藤: 私の起業の原点は、ものすごくシンプルなんです。多くの人が経験するような、日曜日の夜に『サザエさん』を見ながら「明日からまた仕事か……」と翌日の月曜日を憂鬱に感じる。そんな憂鬱な日を、自分の人生からも、関わる人たちの人生からも一日もなくしたい、という強い思いがあります。所属してくれるインフルエンサーの子たちにも、毎日をワクワクして過ごしてほしいんです。

山崎: 素晴らしい原点ですね。それこそが安藤さんの経営者としての最高の可能性であり、絶対にぶらしてはならない最強の軸です。なぜリスクを取ってまで経営者になったのかといえば、自分が好きなことや、やりたい世界観を社会で達成させるためですよね。なのに、多くの経営者が途中で数字や目先の課題にとらわれてそこを間違え、いつの間にか自分がやりたくないことばかりをやっている状態に陥ってしまう。

安藤: 周りの意見や目先の利益を優先しようとすると、自分のやりたかったことから離れてしまう感覚は確かにあります。

山崎: やりたくないことを我慢してやるくらいなら、わざわざ苦労して経営者である意味がありません。経営者は、自分がやりたいこと、実現したい理想の未来を徹底的に追求する「ドリーマー」でいいんです。安藤さんが「月曜日が楽しくなる世界を作りたい」と本気で願い、それを追求し続ける姿を見て、インフルエンサーもファンもついてくるようになります。

安藤: 経営者はドリーマーでいい、という言葉にすごく救われます。ただ、いざ日々の実務や決断に迫られると、自分の理想だけで進めていいのか、具体的にどう舵を切るべきか迷う瞬間がどうしても多くなってしまいます。

山崎: そこは自分の頭だけで悩む必要はありません。「迷ったら歴史に聞け」、これが私の大切な持論です。安藤さんがいま手探りで悩んでいることは、実は過去に同じエンタメ業界やマネジメント業界の先人たちが、何十年も前に同じように苦しみ、工夫を重ねて乗り越えてきたことばかりなんです。先人たちが残してくれた轍(わだち)や歴史をしっかりと学ぶこと。それが、暗闇を手探りで進む若い経営者にとって、進むべき道を正確に指し示してくれる最高の羅針盤になります。

安藤: 歴史から学ぶ。先人たちの轍を羅針盤にするのですね。お話を伺って、いま自分がやるべきこと、そして事務所として目指すべき方向性がとてもクリアになりました。迷わず進めそうです! ありがとうございます。

本記事でご紹介した対談の様子を、動画でもご覧いただけます。
記事だけでは伝えきれない「現場の熱量」を感じてみてください! 

Mentor
山崎 伸治
株式会社サクラサク 代表取締役
京都大学経済学部卒業後、長銀、米系大手戦略コンサル、ベイン&カンパニーを経て起業し、上場を経験。現在は有名大企業の経営顧問を15社歴任するかたわら、25社以上のスタートアップに投資・成長支援を行うなど、“経営のプロフェッショナル”として活躍。

あなたにおすすめの記事