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2026.08.21 16:01

上場後に2期連続赤字…有名起業家が直面した「組織さえ強化すれば成長できる」という過信の代償


知人の紹介で出会った「識学」に可能性を見出し、創業から3年11か月という短期間で上場を果たした株式会社識学。しかし、その直後に直面した「2期連続赤字」という最大の試練が待っていた……。

「組織力への過信により市場ニーズを捉えきれていなかった」

代表取締役社長の安藤広大氏は、過去の失敗を糧に現在の経営に活かしていると語る。今回は、識学を創業した背景や激動の経営ストーリーに迫っていく。

個人事業として「識学」に賭けた決断の裏側

── NTTドコモに新卒入社されたあと、転職されたジェイコムホールディングスを辞め、識学に興味を持ったのはどのような経緯だったのでしょうか?

ジェイコムホールディングスには6年半勤めていましたが、当時「イー・モバイル(EMOBILE)」という携帯電話ブランドを運営するイー・アクセス社の営業トップの方から「一緒にやらないか」と声をかけていただいたんです。

携帯電話業界はドコモ、au、ソフトバンクの3社が圧倒的に強いなか、新たにイー・モバイルとしてこの業界で争っていくというタイミングだったので、「このチャレンジングな環境で自分も働きたい」と思い、転職を決めていました。

しかし、前職にも退職の意思を伝え、イー・アクセス社への入社を間近に控えた2012年10月、同社がソフトバンクに買収される事態となり、当初思い描いていた環境とは大きく変わってしまいました。

最終的には、転職自体を見送ることにしたんですが、そのタイミングで偶然出会ったのが識学でした。

「面白い人がいるから会ってみないか」

当時の友人から紹介されたのが、識学を創作した福富謙二さんです。

最初に話を聞いた時点では、まだ全体像を完璧に理解できませんでしたが、すごく面白い考え方で、強く印象に残ったのを覚えています。

── そこから本格的にビジネスを始めるに至った背景について教えてください。

2012年10月ごろに識学を知ってから、まずは個人で20万円ほどのお金を払って、識学を教わったのが最初のきっかけです。

その後、ご縁のあったベンチャー企業に半年ほどお世話になりながら、並行して識学を学ぶという日々を過ごしていました。

その会社では部下を持つような立場ではありませんでしたが、これまでの営業経験と照らし合わせながら識学を実践的に試していくうちに、「理論の再現性に対する確信」が段々と深まっていきました。

僕の中で組織運営は「国語」に近い領域で、人の感情や文脈、言葉の裏側を読み取る力、言葉で人を動かす力が重要だと考えていました。しかし、識学の考え方は、「数学」や「物理」のようにルールや構造に従って運用することで、組織の成果を安定的に出していくという対照的な思想でした。

最初は「そんなに単純でいいのか」と驚きましたが、同時に「確かにその通りかもしれない」と納得できる部分もあったんですね。

半年ほど関わったベンチャー企業を離れるタイミングで、人材派遣業界や通信業界などからの引き合いもありましたが、まずは個人事業として識学を広める活動を一度やってみようと決めたんです。

自ら現場で証明した識学の再現性

── 現在では累計5000社以上に導入されている識学ですが、その独自の仕組みはどのようにして生まれたのでしょうか。

個人事業主として最初の契約を獲得した際は、今のようにコンサルメニューとして体系化されておらず、かつ自分自身も識学の理論を学んだばかりの状態でした。

そのため、まずは自分で一度やってみようと考えたんです。

受注した会社は、知人が社長を務めていたこともあって、「今一番課題を抱えている事業部を一度任せてもらえないか」とお願いしたところ、NTTフレッツを販売する営業部隊をマネジメントさせてもらうことになりました。

そこで実際に、識学の理論に基づいて組織運営を行ってみたところ、3〜4か月ほどで業績が大きく改善していき、「この考え方は再現性がある」と実感しました。

社長からも高く評価され、「ぜひ全社に展開してほしい」と依頼を受けたことで、個別対応から全社展開へと仕事の幅が広がっていきました。

ただ、全社となると一人で各部門のマネジメントを見るのは現実的に不可能でした。そのため「識学の理論や使い方を教えながら、相談ベースで支援する」という形で対応したんですね。

この経験を通じて、現在のコンサルメニューの土台が出来上がったわけです。

「社員からの人気」よりも「事業成長へのコミット」

2019年2月に上場を果たした株式会社識学

── 理論的には優れていても、話を受け入れてもらえない人もいると思います。うまくいく会社とそうでない会社の違いはどこにあるとお考えですか?

「これまでのやり方をすべて否定する」といったスタンスで支援するわけではありませんが、従来の属人的なマネジメント手法から、仕組みで動かすマネジメント手法へと切り替えるのが前提になります。そのため、まずは経営トップに識学の考え方を正しく理解していただき、社長から現場へ落とし込んでもらう形を基本としています。

そのなかで、うまくいかないケースも当然ありました。

従来のマネジメントでは、経営者は社員から好かれたり、頼られたりすることに“存在意義”を感じやすいのですが、そこを優先しすぎると、仕組みとは真逆の運営になってしまいます。

本来、経営における評価や承認は社員からではなく、市場や事業成果から得られるべきものです。しかし、「社員との関係性を優先する判断」が中心になってしまうと、組織は伸びにくくなります。

もちろん、「社員からの人気取り」を完全にゼロにしろとは言いません。ただ、それがマネジメントの主軸になっている社長は、結果を出すことが難しくなります。

実際に僕が関わった企業でも、その切り替えを最後まで徹底できなかった社長は、結果として十分な成長につながらなかったケースもありました。

上場後の2期連続赤字から学んだ経営の本質

── 2015年3月に会社化し、わずか3年11か月という速さで上場を達成されました。その時の心境はいかがでしたか?

上場の瞬間は嬉しい気持ちはありましたが、当時はひたすら駆け抜けていたため、「大きなことを成し遂げた」という感覚はそれほど強くありませんでした。

本当に上場まではとても順調で、周りの方が言うような「上場の達成感」は正直あまり実感として湧いていませんでした。その後、時間が経ってから、周囲の方々や上場を目指している企業を見るなかで、「あの経験は相当なことだった」とあらためて認識するようになりました。

ただ、一方で上場後は2期連続で赤字を計上するなど、成長が止まるどころか大きな損失を出す状況を経験しました。そのときに初めて、自分の考え方やマネジメントにはまだまだ未熟な部分があると痛感し、もっと学ばなければならないと意識するようになったんです。

── 成長が止まった理由は何だったのでしょうか?

当時は人を採用した分だけ業績が伸び、広告宣伝費を投下した分だけ売上が伸びるという感覚で動いていました。しかし当然ながら、マーケットのニーズを捉えきれていないまま進んでしまったら、いくら社内の生産性や組織力を高めても、どこかで必ずギャップが生まれてしまいます。

そうした市場の変化を見ずに、「組織さえ強化すれば成長できる」と考えて投資を進めてしまったのが最大の失敗でした。

M&A事業に新たな勝算を見出す

── 現在は組織コンサルティング以外にもM&A事業を始めるなど、さらなる事業拡大を推進しているそうですね。

過去の失敗から得た教訓を活かし、現在は中小企業を買収して支援していく取り組みを強化しています。

これまでのファンド事業でも、企業再建や成長支援をしてきた経験があり、経営を立て直して伸ばす実績を積んできたからこそ、主に製造業を中心としたM&A事業は十分に勝算があると思っています。

この取り組みには、大きく2つの目的があります。1つ目は、優れた技術を持つ日本の製造業の経営を強化し、その技術を次世代へと確実に引き継いでいくこと。

そしてもう1つは、自分たちが会社を買収して「識学」で成長させる姿を示すことで、この理論が本当に成果を出せるのだと明確に証明する点にあります。

その結果として、識学という組織コンサルティングをもっと世の中に広げ、マーケットを拡大していきたいと考えています。

<構成/古田島大介 撮影/星 亘>


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