「どんな仕事か」よりも「どんな大人になりたいか」。フォロワー30万人超の老舗企業役員から学ぶ、40年後のキャリアの描き方
「人生100年時代」と言われる現代ですが、一体どれほどの就活生が「40年後の自分」を想像しながら就職活動をしているでしょうか。たとえば自分が経験を重ねて「取締役本部長」になった姿を思うと、つい重々しい会議室で厳格に構える場面を想像してしまいます。でも、もしそんな固定観念を心地よく覆してくれる大人がいるのだとしたら——。
現役大学生が自ら運営する就活メディア『脱力就活。(毎週日曜よる9時〜/ShibuyaCross-FMにて放送中)』。そのコラム版となる本連載では、番組総合プロデューサーの黒澤洋士氏が過去の放送を振り返りながら、番組で就活生に届けたかった想いやメッセージを改めて言葉にしていきます。
今回の『脱力就活。まがじん。』では、そんな堅苦しいイメージをひっくり返してくれる老舗企業の役員をゲストに迎えます。TikTokをはじめとしたSNSでフォロワー30万人を超えるタクシー会社「三和交通」の代表取締役本部長・溝口孝英さんの生き方から、未来の自分を描くためのヒントを探ります。
取締役本部長が自ら手掛けるSNS運用と、その裏側にある努力
今回のゲストは、一度の運送会社への転職を経て、現在は三和交通株式会社の代表取締役本部長を担当されている溝口孝英さんです。
重々しい肩書とは裏腹に、驚くほど物腰柔らかく、楽しそうに番組に登場してくれた溝口さん。年齢はなんと、今回MCを務めた陽羽さんの約3倍だと教えてくださいました。これ以降、簡単には更新されないであろう『脱力就活。』史上最年長ゲストです。
そんな溝口さんがTikTokをはじめとしたSNSで「みぞ部長」として人気を集めるアカウントは、なんと企画から撮影、編集、投稿まで、すべてご自身で手掛けられているそうです。
朝5時半から仕事を始め、取締役本部長として営業所を回り、日中は通常業務をこなす。そして夕方16時頃、ひと段落したタイミングからSNSの撮影を始める。「何曲も踊ると、翌日の仕事に響いてしまう」と笑いながら話す溝口さんですが、その裏にはとてつもない努力があるはずです。
本業の責務を抱えながら、限られた時間の中であれだけ多くの人に届く投稿を作り続ける。それはもはや、プロの仕事としか言えません。TikTokが流行する以前からYouTubeやニコニコ生放送など、長い間動画コンテンツに触れて試行錯誤を積み重ねてきた溝口さんだからこそ、現在のSNSの姿があるのではないでしょうか。
番組中、MCの陽羽さんが「SNSを頑張っている会社は楽しそう」と話していたのも印象的でした。単なる企業の宣伝ではなく、「どんな人たちが働いているのか」「どんな空気の会社なのか」というリアルな雰囲気を届けるSNS運用は、就活生にとっても企業の姿を知る貴重な接点となっています。
現場の小さな声から生まれる、型破りな「新事業」
50年以上の歴史を持つ三和交通は、東京・神奈川・埼玉を中心にタクシー・ハイヤー事業を展開する老舗企業です。タクシー業界で働く人の平均年齢は60歳前後と言われますが、同社の平均年齢は49歳。溝口さんのSNSを見て入社を決める若い世代も多く、業界のイメージを大きく塗り替えています。
そんな同社の特徴は、これまでのタクシーの常識に囚われないユニークな取り組みにあります。
代表的なのが、グッドデザイン賞も受賞した「タートルタクシー」です。
車内にあるボタンを押すと、文字通りゆっくりと丁寧な運転をしてくれるこのサービス。日々時間に追われがちな現代社会において、「急がなくていい」「ゆっくり移動したい」というお客様の小さな声に耳を傾けて生まれたものです。効率やスピードばかりが求められる中で、こうした優しさに満ちたメッセージ性には深く考えさせられます。
さらに、従業員一人ひとりの個性を生かし、「カメラ馬鹿ツアー」「ドッグランツアー」「心霊スポット巡礼ツアー」などの型破りな観光事業も展開されています。
中でも「心霊スポット巡礼ツアー」は、一時、申し込み倍率が64倍に達したこともあるそうです。これらの新しい企画は社長自ら提案されることも多く、最初は役員陣が反対することもあるのだとか。それでも熱意に押されて実際に形にしてみることで、結果として大きな話題を生み出しています。
「みぞ部長に会いたいツアー」など、時代のトレンドやエンタメを柔軟に取り入れながら挑戦を重ねる姿勢は、働く側にとっても非常にクリエイティブで、大きな魅力と言えそうです。
自分の意思でキャリアを選ぶ、自由な働き方
今回の収録を通して印象的だったのは、タクシー業界における働き方の自由度でした。同社には、趣味やプライベートを充実させるために1か月のうち12日程度出勤する働き方を選ぶ人や、成果を出して年収1,000万円を超えるドライバーもいるそうです。
もちろんそれだけの収入を得るには相応の努力が必要だと思いますが、自分の働き方を自分で考え、成果次第では大きな収入につなげられる。そこには、私がこれまで抱いていたタクシードライバーのイメージとは違う魅力がありました。
溝口さんご自身も、一度は別の業界を見ることで、タクシー業界の働き方と自身のライフスタイルとの相性の良さに気づき、再び戻ってこられたそうです。
「育ててくれた会社に恩返しがしたい」
「大好きなゴルフをするために、有給をくださいと上司に頭を下げるのが嫌だった」
まるで道を自由に走るタクシードライバーのように、誰かに決められたレールを歩むのではなく、自分の意思でキャリアを選び取っていく。その自由な生き方には、長い社会人人生を歩んできたからこその説得力がありました。
40年後に「どんな大人になっていたいか」という問い

事前の打ち合わせから、楽屋で過ごした時間、画面越しで出会った瞬間から収録まで。溝口さんは終始穏やかな雰囲気で、楽しそうに番組へ出演してくださいました。
取締役本部長という立場に至るまで、きっと数え切れないほどの経験をされてきたはずです。語ろうと思えば、私たちに伝えられることはいくらでもあったと思います。それでも、学生たちによるまだまだ拙い番組進行を楽しそうに聞き、時には場を盛り上げながら、収録そのものを支えてくださいました。
私がもし、溝口さんと同じ年齢になったとき。溝口さんのように、若い人たちに対して謙虚に接することができるだろうか。そう考えさせられました。
就活をしていると、つい「どんな会社に入りたいか」「どんな仕事をしたいか」といった条件や職種ばかりに目が向きがちです。
しかし、40年という長いキャリアを見据えたとき。「どんな社会人になっていたいか」「どんな大人でありたいか」という視点から会社を選んでみるのも、一つの大切なアプローチではないでしょうか。
「こんなふうに年齢を重ねていきたい」と思える生き方に出会う。そんなキャリアの可能性を感じさせてくれる、今回の放送でした。
Future Leaders Hub 編集部 