「自分が好きでもないものを他人に届けることなどできない」社員3人の会社を上場まで導いた男のビジネス論
社員3人から東証グロース上場へと導いたマテリアルグループ代表の青﨑曹氏は創業者から受け継いだ「愛・思いやり・正義・誠実」という信念を経営の判断軸に据え、役職を超えて本質に向き合うカルチャーを醸成してきた。
今回は会社の急成長を支えたマインドセットや一次情報を取りに行く独自のインプット術、学生時代に身につけるべき選択肢を増やすスキルについて青﨑氏に伺った。
PR発想を軸とした戦略を設計

── マテリアルの事業概要を教えてください。
私たちはPR発想を軸に、マーケティングコミュニケーション全般を通じてクライアントを支援しています。従来型のPRはもちろん、デジタルマーケティングやコンテンツ制作など、さまざまな手法を組み合わせながら、企業のコミュニケーション課題に向き合っています。
例えば、企業が新しいブランドや商品を世の中に打ち出す場合、単に認知を広げるだけではなく「社会にどう受け入れてもらうか」という視点が重要になります。
そのために、まずはクライアントが実現したい状態や、社会からどのように受け止められたいのかを丁寧にヒアリングしていきます。その上で「何を伝えるのか(What)」と「どう伝えるのか(How)」の両面から最適なコミュニケーションを設計します。
テレビCMやデジタルマーケティングを提案する時もあれば、それらを掛け合わせた複合的なアプローチを提示することもあります。手法を前提とするのではなく、クライアントが目指す「ありたい姿」をゴールとして設定し、そこから逆算した最適なマーケティング戦略の設計を大切にしています。
── テレビCMとデジタル広告は、やはり特性が異なるということなんですか?
まだ世の中に存在していない新しいブランドを一気に認知させたい場合には、一定のリーチやボリュームを持って発信できるテレビCMが非常に有効です。
一方で、すべてのブランドにテレビCMが最適というわけではありません。世の中に広く認知を取ることが目的なのであれば、テレビCMのようなマス広告が最適でしょう。しかし、特定のターゲットに対して、熱量の高いファンをつくることが目的の場合、デジタルやSNSを活用した方が効率的な場合もあります。
ブランドが目指している世界観や置かれている環境によって、選ぶべき打ち手は変わってくると思うのです。
テレビCMやリアルイベントには、その場でしか生み出せないインパクトや価値があります。一方でデジタルマーケティングは、SNSをはじめとするプラットフォームの活用や出稿手法が多様で、市場全体も大きな成長を遂げています。
どちらかの良し悪しではなく、それぞれの強みがあるからこそ、そのブランドが目指すゴールに合わせて、どのようにコミュニケーションをデザインしていくかが肝になるわけです。
社員3人から東証グロース上場への道程
── 2019年に社長へ就任したのはどのような背景があったんですか?
2019年に創業オーナーが勇退されることになり、そのタイミングで私が代表に就任しました。そこからCFOをはじめとする経営陣や仲間と共に、マテリアルグループをここまで成長させてきました。
私が入社した当時は、社員がまだ3人しかいない会社でした。それが今では100人弱の組織になり、こうして大きなオフィスを構え、会社を率いる立場になっている。
そう考えると、東京証券取引所の鐘を鳴らした瞬間は、これまで積み上げてきた15年間が一気にフラッシュバックするような特別な時間でした。あの瞬間の感覚は、きっと自分の人生の中でも鮮明に残り続けると思います。
もともとは本当にファッションが大好きで、「もっと洋服を買いたい」というところから、キャリアにレバレッジをかけることを考えてきました。洋服に対する情熱そのものは、当時と比べて今もそれほど大きく変わっていません。
ただ、会社が成長するにつれて、自分がこの会社で実現したいことも少しずつ変化してきました。成長のスピードは非常に速かったと思いますが、まだまだ満足しているわけではなく「ここから何を実現していくのか」というところに強い興味があります。
── 会社が急成長したのはどのようなタイミングだったのでしょうか。
大きな転機は2つあったと思います。
1つ目は、自分が入社して1年ほど経ったタイミングで、日本を代表するブランドを数多く支援する大手総合広告代理店との取引が始まったことです。私たちもPRのエキスパートとして仕事をさせていただくなかで、日本トップクラスのブランドを支えるのであれば、それに見合う水準でサービスを提供しなければいけない。
そういう環境に身を置いたことで、会社としての経験値も一段上のレベルへ引き上げられましたし、働くメンバーのマインドセットも大きく変わりました。
2つ目は、私が代表に就任したタイミングで「マーケティングコミュニケーションの領域で日本一を目指す」というシンボリックな目標を掲げたことです。「日本一を目指す」という共通の旗を立てたことで、組織として目指す方向がより明確になり、そこから会社の成長がさらに加速したように思います。
その結果として、M&Aを含めたコーポレートアクションにも、かなり積極的に取り組むようになりました。自分たちの力だけで成長するのではなく、外部との連携やM&Aなどを通じて「成長のエンジンそのものを増やせるようになった」のは、グループにとって非常に大きかったです。
「愛・思いやり・正義・誠実」の大切さ

── 代表に就任し、会社を成長させていく中で、これだけは常に心がけてきたという信念はありますか。
創業者からは「愛・思いやり・正義・誠実」の4つを大切にするように、日頃から教えられてきました。自分自身の判断軸がぶれないよう、これまで使っていた手帳の最初のページにはこの4つの言葉を忘れずに書くようにしていましたね。
組織が拡大し、事業が軌道に乗るほど、人は知らず知らずのうちに傲慢になりがちです。だからこそ、クライアントや仲間へのリスペクトはもちろん、何より自分が担当する商品そのものに愛情を持つことが大切になるんですね。
例えば、飲料メーカーを担当するなら、「一生この商品しか飲まない」と言えるくらい、自分自身がその商品を愛すること。自分が好きでもないものを他人に届けることなどできないからです。「仕事だから」と割り切って向き合うのではなく、担当する商品やサービスを深く理解し、心から愛着を持つことが大切です。
また、何か意思決定に迷った時には、それが会社にとっていい判断なのか。自分自身にとって正しいことなのかを、常に「正義」と「誠実」という言葉に照らして考えるようにしてきました。
そして今は、創業者から受け継いだ4つの言葉を、そのまま社員に伝えているわけではありません。その代わりに、今の会社のバリューの一つとして「Focus On」という考え方があります。これは、「誰が言ったかではなく、何を言ったかを大切にして判断しよう」という考え方です。
そのため、私の意見に対して異論を唱えることも、もちろん歓迎しています。役職や立場に関係なく、発言の中身に向き合い、より良い答えをチームでつくっていくカルチャーを大切にしています。
── 「愛」があれば「思いやり」が自然と生まれ、それが「誠実」な行動へと結びつき、やがて「正義」へとつながるということなんですかね。
エーリッヒ・フロムの『愛するということ』という本があるんですけど、その中でフロムは「愛することは一つの技術である」と語っています。愛は、ただ自然に湧き上がってくる感情だけではなく「学び、意識し、実践することで身につけていくものでもある」と理解すると、非常に有効な判断軸になるのではないでしょうか。
PRの面白さは「知的好奇心を満たし続けられること」

── PRの仕事をやっていてよかったと思うエピソードがあればお聞かせください。
私はもともと飽きやすい性格なので、特定のメーカーや一つのブランドに長く携わり続ける仕事は、あまり向いていなかったと思います。それが現在の仕事では、非常に多くのクライアントとお付き合いがあり、多種多様な業界や商品に触れることができます。こうした幅広い知見を深められる環境が、私の知的好奇心を満たしてくれますし、本当にこの業界へ飛び込んでよかったと実感していますね。
また、クライアント様と対話しながら、「正解の決まっていないものを一緒に形にしていくこと」にも、大きなやりがいや面白さがあります。まずは企画やプランニングの段階で最適な答えを導き出し、次にそれを実行して、クライアントが求める成果を出すところまで伴走できる。これこそが、この仕事をどれだけ続けても飽きることのない魅力だと考えています。
── 学生時代に「これはやっておけばよかった」と思うことは何かありますか。
学生時代は、親に申し訳ないと思うくらい、本当に勉強していなかったんですよ(笑)。でも、社会に出てわかったのは、「どこかのタイミングで必ず“帳尻”を合わせなければいけない瞬間が来る」ということです。
例えば、今の立場になってからも、財務については決してエキスパートではありません。ただ経営をする以上、最低限の知識はどうしても必要になります。そうなると、他にやるべきことがあったとしても、優先的にインプットしなければならなくなるんですよ。
なので、学生のように比較的時間に余裕がある時期に勉強できるのであれば、やっておいた方がいいと思います。もし自分が目指す世界があるとしたら、「早いうちに済ませておいた方が後々楽になる」ものなんですよね。
最低限の財務知識を身につけておくといい
── 「時間があるうちにこれだけはやっておくべき」という具体的なことは何ですか?
多くの方は、まずは企業に勤めるところからキャリアをスタートすると思います。その中で、最低限の数字の仕組みを読み解き、良し悪しを判断できるレベルには到達しておいた方がいいでしょう。
PL(損益計算書)、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー計算書)といった財務諸表の概念を理解しておくだけでも、自社やクライアントが置かれた現状をより深く把握できるようになります。
最初は少し難しく感じるかもしれませんが、理解が深まるほどビジネスの面白さも見えてくるため、学ぶ価値は非常に高いといえます。
キャリアにおいて、幸せかどうかを決める一つの要素は「自分が持っている選択肢の多さ」だと思うんですよ。「この仕事を任せたい」「担当として来てほしい」と思ってもらえる機会があったとしても、必要な知識やスキルが足りないという理由だけで、そのステージに上がれないことだってあり得るわけです。
どんなキャリアを歩んでいくにせよ、最低限の財務知識は決して無駄にならないと思っています。
<構成/古田島大介 撮影/林 紘輝>
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Future Leaders Hub 編集部