コロナ禍で予約がゼロに…旅行業ひと筋だった61歳が「水素発電」で世界を変えようと決めた理由

「正直、空飛ぶ車を売っているような感覚なんです」
そう笑いながら話すのは、株式会社H2 Innovation代表の森陽介氏です。アメリカで32年を過ごし、旅行会社を経営してきた森氏がなぜ今、水素発電事業に人生をかけて挑んでいるのか。その背景にはコロナ禍という大きな転機と地球規模の課題への危機感がありました。
3か月先まで埋まっていた予約がゼロに
北海道の農家に生まれた森氏は、22歳でアメリカへ渡米しました。全日空グループの旅行会社で15年間キャリアを積んだ後、2003年にラスベガスで独立。18年間で5万人以上の顧客をグランドキャニオンやセドナのパワースポットへ案内するなど、旅行と大自然を愛する人生を歩んでいました。その歩みを止めたのが、2020年のコロナ禍です。
「3か月先までびっしり入っていた予約が、一瞬でゼロになりました」
日本に戻り、まず光触媒を使った抗菌コーティング事業に取り組んだ森氏でしたが、コロナが落ち着いてくる気配を感じた2021年1月、次なる大きな課題を見据え始めます。「気候変動と温暖化対策」に危機感を抱いた森氏がたどり着いたのが水素発電でした。
「太陽光や風力発電の余剰電力で水道水を電気分解し、水素と酸素に分けて貯蔵、必要な時間帯に発電。このシステムを病院、介護施設、食品工場、データセンターなどに提案するビジネスです。自治体や企業を一軒一軒回っていけば、1人でも立ち上げられると思い、立ち上げました」
2021年6月、神奈川県相模原市のFCR&D社と販売総代理契約を結び、事業をスタート。環境省の補助金採択を4年連続で実現し、ジャパン・レジリエンス・アワードも3年連続で受賞するなど、着実に実績を積み重ねてきました。

水素カーで世界中のレース場を走り、安全性を証明
水素発電の普及における最大の壁は、認知度の低さです。
東京都の助成金では、100キロワットの水素発電システムに対して最大4億円以上が100%で支給される制度もあるといいます。しかし、環境省も東京都も予算を消化しきれていないのが現状。それほど知られていません。
「テスラは走っているけれど、空飛ぶ車はまだ飛んでいない。それくらい、水素発電は皆さんに伝わっていないんです」
とはいえ、世界の潮流は確実に動いています。サウジアラビアやオマーンがグリーン水素の輸出にシフトし、日本でもGX法のもとで10年間に150兆円規模の官民投資が見込まれるなか、水素とアンモニアへの配分は6兆〜8兆円に上ると森氏は語ります。
森氏の構想は、水素発電の普及にとどまりません。国内A級ライセンスを取得して鈴鹿サーキットや富士スピードウェイを走り、将来は水素カーで海外レースに出場してプロモーション活動を行う計画を描いています。
また、国際C級ライセンスの取得にも挑戦中で、小型船舶1級免許を取得し水素船による太平洋横断でギネス記録を狙うという夢も持っています。
北海道苫小牧市には、完全カーボンニュートラルのカジノリゾート(IR)建設を提案中です。データセンターの廃熱を活用した水耕栽培や陸上養殖、地下シェルターまで組み込んだ複合開発の構想で、自治体からも年間最大5000万円の協力を引き出しています。
「若い人たちに個人事業主として集まってもらえるプラットフォームを作りたい。私はそのための基盤を整える人間になりたいです」

雑草みたいに何度も立ち上がる人間に
若手ビジネスマンへのメッセージを問われると、森氏はためらいなく答えました。
「早いうちにたくさん失敗してください。日本の人は失敗を恐れて、体裁を保とうとしすぎる。海外では何度こけても立ち上がる、雑草みたいな人たちが多いんです」
自身も浪人を繰り返し、英語もできないまま22歳でアメリカを一人旅し、まったくお金もないのにコンサートを主催して大失敗を経験しました。それでも、その経験値の積み重ねこそが今の自分を支えていると言います。
「やりたいことリストが常に100個あって、1つ消えるとまた増える。全部はできなくても振り返るとできていることが増えていく。妄想でいいから、いっぱい持っておいてほしいんです」
「好きなことに挑戦し、後悔しない人生を」と語る森氏。61歳にして今もなお、水素発電という新たなチャレンジに燃えているようです。
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Future Leaders Hub 編集部